導入事例(ジョンソンコントロールズ株式会社様)
ジョンソンコントロールズ株式会社 (AI総合付加価値創造サービス)空調システムの不具合検知システムに機械学習システムを導入。人手不足、技術継承の解決に取り組む。
建物の省エネを促進する自動制御機器や中央監視システム、空調冷熱機器などの施工、保守管理を手がけるジョンソンコントロールズ株式会社。同社は空調設備の保守サービス向けに、AI(機械学習)を利用した不具合検知(FDD)システムを開発し、データ分析の自動化による迅速かつ正確な予防保全の実現を目指しています。富士ソフトはこのプロジェクトをコンサルティングから支援し、マイクロソフト社の機械学習サービス「Azure Machine Learning Studio」を活用した学習モデル構築や、「Power BI」を用いた分析結果のレポーティング・システムの開発などを行いました。
- 導入の背景
高度な技術とノウハウが必要となるデータ分析業務を標準化したい -
世界150ヵ国以上に拠点を持つグローバル企業で、幅広い分野で多様なテクノロジーを提供している業界トップクラスのジョンソンコントロールズ。その日本法人であるジョンソンコントロールズ株式会社は、ビルオートメーション分野を中心に事業を展開しています。
今回新たな不具合検知(FDD)システムが導入された「可変風量空調(VAV)システム」は、空調機から送られてくる温風・冷風の量を、天井などに設置されたユニットで調節して室内環境を整えるものです。その重要性を、同社の谷井 裕之氏は次のように説明します。
「大型のオフィスビルではVAVユニットの設置数が数千台を超えることもあり、それらは互いに複雑に連動しながら動いています。ここに不具合や故障があると、室内の快適性や省エネに大きな影響を及ぼしかねません。そのビルで働いている方々はもちろん、ビルオーナー様にとってもサービス品質を左右する大きなファクターになります」
快適な室内環境の維持と空調機器の予防保全を実現するため、ジョンソンコントロールズ社では以前より、保守管理契約を結んでいる建物の中央監視システムから空調機器や室内環境に関するデータを集め、異常があればアラートを出すFDDシステムを運用してきました。さらに毎月、ビルオーナー向けに収集したデータの分析レポートを作成し、空調設定の最適化支援も行っています。しかし、こうした正確な分析・判断を行うには、熟練した技術を持つ人材が必要です。
「昨今の人手不足や今後の技術継承、お客様へのサービス品質向上などを考える中、機械学習を利用して属人化している分析業務を一般化・標準化できないか、という構想が生まれました」と、同社の齊藤 央氏は、今回のシステム開発のきっかけを語ります。
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ジョンソンコントロールズ
株式会社
ビルテクノロジー&
ソリューション
執行役員
サービス推進本部長
小柳 吉正 氏 -
ジョンソンコントロールズ
株式会社
ビルテクノロジー&
ソリューション
ソリューション開発本部長
谷井 裕之 氏 -
ジョンソンコントロールズ
株式会社
ビルテクノロジー&
ソリューション
サービス推進本部
サービス企画推進部
エネルギーソリューション
センター長
齊藤 央 氏 -
ジョンソンコントロールズ
株式会社
ビルテクノロジー&
ソリューション
ソリューション開発本部
プロダクトマネジメント部
Tier0チーム チーム長
地田 清和 氏
- 会社選定のポイント
業務内容に寄り添った活用提案 -
2016年、この構想を実現するためにジョンソンコントロールズ社は、AI関連のソリューションを手がける複数の企業に新システムの企画提案を求めました。その中から選ばれたのが、Microsoft Azureをプラットフォームとし、機械学習にAzure Machine Learning Studioを使用する富士ソフト株式会社の提案でした。
富士ソフトは10年以上にわたり、コミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」の開発をはじめ、AIや機械学習に関連する研究・開発を行っています。近年、本格的にAIインテグレーションに注力し、独立系SIerならではのAIコンサルティングサービスを展開しています。
また富士ソフトは、ジョンソンコントロールズ社のテナントサーバーやビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)の開発をサポートしてきた長年の実績があり、ビルオートメーションにも知見を持っています。
ジョンソンコントロールズ社の地田 清和氏は語ります。「富士ソフトから、AI の最新潮流について伺う機会があり、AI が実用段階に入っていることや、すでにさまざまな産業で実装が試みられていることを、専門的な目線から具体的に示していただきました。また、AIにできることを漠然と説明するだけでなく、当社の業務内容に寄り添った具体的なAI活用策をご提案いただけたことが一番の決め手となりました」
- 開発概要
コンサルティングから学習結果の摺り合わせまで、細やかに対応 続けて地田氏は、開発着手時のことを次のように振り返ります。
「我々には、収集したデータの分析結果をお客様に提供するスキルはありましたが、それを機械学習システムに仕立てるノウハウはありません。そこで、我々が持っているものを富士ソフトに共有して、コンサルティング段階から支援を受けることにしました」
その言葉通りジョンソンコントロールズ社は、同社が数年にわたって収集・蓄積してきたVAVの稼動データ(室温・設定温度・風量・ファンの回転速度など)、正常時・異常時のデータパターン例、異常パターンから推測される不具合の要因例といった情報・ノウハウをすべて富士ソフトと共有し、これらを「教師データ」とする新しいFDDシステムの開発をスタートさせました。
「これまで現実には起こっていないものの、特定条件下では起こる可能性がある」という不具合も検知できるように、新FDD用の「教師データ」の中にはジョンソンコントロールズ社がシミュレータを用いて作成した「異常値」も含まれています。空調制御関連のソフト開発で実績を持つ富士ソフトでは、その値に、季節ごとの外気温や室内の人数といった様々な要因で生じる誤差を加味したデータを追加し、より精度の高い判定ができるシステムをつくりあげました。
新FDDの構成は下図のようになっています。各ビルからジョンソンコントロールズ社のリモートオペレーションセンターに集められたデータはMicrosoft Azureへアップロードされ、Azure Machine Learning Studioで分析、結果は同じくMicrosoft Azure上のPower BIにレポートとして表示されます。レポートのフォーマットは従来、担当者が作成してきたものと合わせてあるため、AIと熟練担当者の判定を比較するのにも適しています。テスト運用中はこのレポートの比較やジョンソンコントロールズ社との綿密なミーティングをもとに、富士ソフトが機械学習の知見とSIerとしての開発力を活かしてアルゴリズムの選択・追加、教師データやPower BIによるレポート出力の調整などを行い、チューンナップを行いました。
ジョンソンコントロールズのシステム構成イメージ
- 今後の展望
人の手を介さない空調メンテナンスを目指す -
2018年7月、ジョンソンコントロールズ社は機械学習を活用したFDDシステムを開発・導入し、保守サービスを開始することを発表し、注目を集めています。今後多くのビルで運用が進み、そこで得られた実データが「教師データ」として増えていくにつれ、レポートの精度はますます向上していくと期待されます。同社の小柳 吉正氏は、AI活用の展望をこう語ります。
「現在は、分析レポートを定期的にお届けすることを想定したサービスですが、ゆくゆくはリアルタイムで不具合の予兆を捉え、お客様にいち早くお伝えし、人の手を介さずに大半の点検が行えるようにしたいと考えています。富士ソフトには、今後もAI活用で、いろいろなサポートを期待しています」
―― 様々な分野でAIの活用が進んでいます。AIを取り扱うベンダーも増えてきました。富士ソフトの強みは、SIerとしてシステム全体を俯瞰し、その業務に適したAI活用やプラットフォームの選定をお客様と一緒に考えていけることです。
最後に、今回のプロジェクトを担当した富士ソフトの刈込 大祐は、自社のAIインテグレーションについて次のように述べます。「AIは単体で使うものではありません。今回のジョンソンコントロールズ社の事例のように、AIは導き出した結果をレポートとして書き出したりDBと連携させたりして利用する、技術要素のひとつです。効果的なAI活用を提案するには、導入前のコンサルティングでお客様の業務やご要望を理解して、それにマッチするAIを選択するだけではなく、周辺システムにうまく組み込む技術も必要です。それを包括的に実現できるのが、独立系SIerである当社の特長です。AI導入を検討されるなら、ぜひ当社にお声がけください」
- お客様プロフィール
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ジョンソンコントロールズ株式会社所在地 東京都渋谷区笹塚1-50-1笹塚NAビル 設立 1971年6月1日 従業員数 約1,300名 事業内容 ・建物の省エネを促進する自動制御機器、中央監視システム、空調冷熱機器、産業・舶用冷凍機器、セキュリティシステムの製造、施工、保守、ならびに運用コンサルティング
・自動車用バッテリーの製造販売オフィシャルサイト http://www.johnsoncontrols.co.jp