TOTO株式会社(IoTプラットフォーム on AWS導入支援)
IoTの活用で、パブリックトイレに対する
施設管理者の要望に応えるソリューションを構築
社会に新たな価値を提供する新サービスを事業化
システム構築時の課題
- IoT機器の接続数が数十倍、数百倍に増加していくことを想定
- システム規模の拡大による業務負荷の増大
- 10年以上継続利用されることを見据えた拡張性と安定稼働を両立するシステムの実現
- 新規サービス事業を成長させるためのビジネスモデル
構築システムの効果
- 柔軟なスケーラビリティで接続機器の増加に対応
- サーバーレスでシステム拡張に伴う業務負荷を削減
- 様々なシステム変更にも的確に対応する長期の運用安定性
- 蓄積したIoTデータ分析と市場のニーズに合わせスピーディーにサービスを開発できるIoT基盤の実現
より衛生的で快適なトイレ空間を
お客様にご利用いただくために
TOTO株式会社は、衛生陶器をはじめとする住宅設備機器のものづくりを、100年以上にわたって手がけてきた企業です。ウォシュレット(※1)など新しい価値をもたらす製品で、社会とお客様により衛生的で快適なトイレ空間を提供しています。
2021年4月には、長期視点で実現したい暮らしや社会・環境を明確化した「新共通価値創造戦略 TOTO WILL2030」を策定。2021年度からの3年間は、中期経営課題(WILL2030 STAGE1)として、時代の変化に先んじるための「デジタルイノベーション」を重視し、IT活用に注力しています。
※1 「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です
本社外観
パブリックトイレの施設管理者から聞こえてきた
新たな要望にIoTで対応
TOTOは創業期からウォシュレットなど、社会の流れを変えてきた企業であり、今回のプロジェクトもIoTを活用することでトイレ空間の新しい価値を提供できると考えたことによるものです。その中で、「IoTにより入手できる多くのデータを有効活用し、社会とお客様に新たな価値を提供することに取り組んでいます」と語るのは、同社の島野晃輔氏。トイレ空間生産本部IoT推進グループのグループリーダーであり、新サービスの開発推進~運用業務までをトータルに担当しています。
この考えに基づき、パブリックトイレ(※2)対するお客様の声をヒアリングすると、衛生意識の向上やコロナ禍の影響などから、「清潔で快適なトイレの維持管理を効率的に行いたい」という施設管理者からの新しい要望が明確になりました。そこで、「各種器具をIoTに対応させることで、施設管理者にトイレ器具の様々な情報を伝える『設備管理サポートサービス』を立ち上げることになったのです」と、島野氏は今回の新サービス誕生の経緯を紹介してくださいました。
※2 商業施設、交通施設、オフィス、学校など、住宅以外のあらゆる施設のトイレを同社ではパブリックトイレと呼んでいます
システムのスケーラビリティが最も大きな課題に
新サービスの実現に向け、TOTOではトイレの状況を見える化するIoTシステムの検討をスタート。そこで課題になったのが、契約数によって接続される機器が急激に増加する可能性があるシステムのスケーラビリティです。
今回開発する新サービスは、高層のオフィスビルや商業・交通施設などの大型施設が対象です。そのため、契約先が一つ増えるだけで、新たに1,000台以上のIoT機器がシステムに接続されることになることが想定されたのです。
必要となったのは、IoT、クラウド、サービス開発に関する知見
「当社ではクラウドを利用したシステムは構築していたものの、利用者が膨大に増加するシステムを構築した経験はなく、柔軟なスケーラビリティやサーバーレスの必要性は想定できたものの、具体的に検討できるだけの知見は蓄積していませんでした」と話すのは、当時、同社の情報企画本部でICT企画グループのグループリーダーを務めていた岡永和光氏です。
また、トイレ器具は一度導入されると、10年以上使用されることもあります。そのため、構築するシステムは、10年以上継続して利用し続けられるように考慮する必要があります。さらに、その間にも接続されるトイレ器具は増え続け、データ通信量や蓄積データは膨大な量になってくることから、これに耐えうるスケーラビリティを持つシステムを構築することが絶対条件だったのです。
さらに島野氏は、「ものづくりなら社内に100年以上の知識とノウハウがあるものの、サービス開発に関しては、的確なビジネスモデルを構築するために有効な蓄積がありませんでした」と、当時の課題を語ります。
こうして、IoTとクラウド、さらにサービス開発の知見獲得が、新サービス実現の要件として明示されました。
採用するクラウドサービスは、社内インフラとしての運用実績に基づいて決定
IoTシステムを構築するクラウドとして採用されたのは、アマゾン ウェブ サービス(AWS)でした。
理由は、「グローバルで最もシェアの高いクラウドサービスであること」、「シェアの高さからAWSを活用したIoTシステム開発の実績、ノウハウをもつベンダーが数多くいること」、「利用可能なサービスがIoT関連を含めて膨大にあることに加えて社会動向とユーザーニーズに基づいて増え続けていること」、「世界中にデータセンターがあり、新サービスのグローバル展開にも柔軟に対応できること」などです。
10年を超える組込み系の開発実績を評価し、富士ソフトもパートナー候補に
ただ、「社内で蓄積していたAWSの知見だけでは、今回のシステム構築が難しいことはわかっていました」と、岡永氏。そこで、IoTや柔軟なスケーラビリティ、サーバーレスなどへの知見や対応実績が十分にあり、目指すIoTシステムを構築・運用するためのパートナーを選定するため、AWSパートナーの認定資格を保有し、さらにIoTの実績があるベンダー5~6社にRFPへの対応を依頼しました。
その中の1社が、富士ソフトです。「同社は当社製品の組込ソフト開発で10年以上の実績があり、技術力は高く評価していました。AWS関連の依頼をしたことはありませんでしたが、AWSビジネスを展開していることは知っていましたし、当社ビジネスへの理解も高いことから、パートナー候補の1社と考えました」(岡永氏)。
規模を拡大し続けるシステムに最適な構成を
CI/CDパイプラインも導入して提案
RFPを受け取った富士ソフトは、長年TOTOの開発に携わってきた江見雅和を中心にプロジェクトを組織。江見とともにプロジェクトのマネジメントを担った矢田裕登は、「TOTO様の新たなビジネスチャレンジが成功し、着実に実績を積み上げていくことに貢献できるよう、当社の知見を最大限に活かした提案に取り組みました」と話します。
矢田のアサインで本プロジェクトに参加したのが、数々のIoTシステム構築に携わってきた森田和明と松井美佳です。「最初に驚いたのは、ビジネススケールの大きさでした」と言う森田。IoTシステムとして最大のキーポイントになると二人が注目したのは、時間の経過とともに増加するトイレ器具の台数です。
松井は、接続台数が桁違いに増え続けてもスムーズに稼働するシステム構成を森田と一緒に検討し、「サーバーレスコンピューティングの導入や収集するデータ特性によって処理工程を分けて負荷分散する仕組み、さらに開発と運用の連携を深めることでヒューマンエラーを抑えて信頼性を高め、開発期間の短縮も図れるCI/CDパイプラインを導入した提案に取り組みました」と、当時を振り返ります。
もう一つ、今回のプロジェクトで特長といえるのが、組込み系の開発に携わってきたメンバーが参加してPMOを構成したことです。
「これまでの実績に基づいて培ったTOTO様の経営理念やビジネス姿勢などに対する理解を基盤に据えて、IoTから組込み系まで一気通貫で対応できることもアピールしました」(江見)。
課題に対する具体的な解決提案と豊富なビジネス実績を評価
今回、富士ソフトがパートナーに選ばれた一番の理由は、提案内容の具体性でした。
「提案のポイントとして考えていたのは、接続するトイレ器具が膨大な規模で増大し、今までの業務システムでは想像できない規模になる中で、どう対応するか。富士ソフト様の提案は、内容が具体的で質問にも明確に答えてもらい、とても安心できたことを鮮明に覚えています」(岡永氏)。
もちろん、IoTサービスの開発実績が数多く、AWSに関する知見・ノウハウが豊富なこと。AWSパートナーの最上位である「AWSプレミアティアサービスパートナー」であり、客観的に技術力の高さが証明されていることも評価されました。
さらに島野氏は、50年以上もSIerとして歩み続け、製品開発も含めたビジネス展開の実績が豊富であることから、「今回のビジネスをトータルにサポートしていただけることも重要な要因でした」と話してくださいました。
作業負荷と運用コストを抑えるため様々な物件を共通管理できる仕組みを明確化
IoTシステムの開発が正式にスタートしたのは、2019年8月。最初に取り組んだ要件定義では、サービス対象となる物件の管理手法が大きな課題になりました。
今回のサービスでは、ビル一棟や高速道路のサービスエリア、鉄道駅、空港など、様々な物件がサービスの提供対象になります。こうした物件を、施設タイプごとに管理を行うと、システムは複雑になり、作業負荷も運用コストも高まってしまいます。そこで富士ソフトは、すべての物件を共通化して管理できる仕組みを明確にしました。
要件定義が2019年10月に完了したのち、TOTOでは新サービスの価値をさらに高めるための検討に着手。その過程でサービスの採算性が議題になったとき、富士ソフトはAWSのシステム構成や接続するトイレ器具の台数によって運用コストを瞬時に算出するツールを開発し、スピーディーな意思決定に貢献しました。
予定通り2021年6月にサービスの販売が実現
こうして2020年4月、新たな方針を考慮する形で基本設計が始まりました。「その後も付加価値の創造と実現に向けた機能追加を、社内で試行錯誤しながら検討を進めていきました。そのため、基本設計に着手後も多くの仕様変更が発生しました」と語るのは、TOTOの情報企画本部ICT企画グループに所属し、新サービスの価値を実現する機能開発と安定稼働を担当する石塚健人氏です。
「富士ソフト様にはそのたびに、提案から開発までスピーディーに対応してもらいました」(石塚氏)。
こうした取り組みを行った結果、新サービスの「設備管理サポートサービス」はスケジュール通り、2021年6月に販売が始まりました。
AWSの特長も活かし、最適なシステムを臨機応変に開発
仕様変更にもうまく対応できた要因として矢田があげたのは、変更内容について細部までじっくりディスカッションできたことです。
「お互いの意見を交わすことでゴールが明確になり、その実現に取り組めたことが有効だったと考えています」(矢田)。
また、松井は「細かな構成変更にも柔軟に対応できるのが、AWSの特長です。さらに、AWSは新しいサービスが次々に登場していることから、変更内容に対応するサービスをピックアップし、臨機応変に組み合わせたことで、うまく対応できたと考えています」と話しました。
サービスの提供開始から、2023年6月現在までトラブルなくスムーズな運用を実現
「設備管理サポートサービス」により、施設管理者は器具の状況がパソコンやスマートフォンの管理画面からリアルタイムに確認でき、ウォシュレットの温度変更など各種の操作が遠隔から実施できます。
また、水石けんのタンク残量を知らせる「補充アラート」、器具のエラー内容を伝える「故障・部品交換アラート」といった機能も利用でき、効率的な維持管理が実現できます。
さらに、器具の使用回数をはじめとする各種の累積データを活用することで、現場ごとの利用実績に基づいた清掃計画や警備員の見回り、長期保全計画が策定できるようになりました。
設備管理サポートサービス
施設管理者向けサービス画面イメージ
施設管理者向けアラート詳細画面イメージ
※画面上のアラート出力状況はイメージです。実際の運用現場でのアラートの出力状況とは異なります。
構築したIoTシステムは、サービスの提供開始から2023年6月現在までの間、大きなトラブルもなく順調に稼働。「スムーズな運用で対応に追われることもなく、品質の高さを実感しています」と、石塚氏。
島野氏は、「タイトなスケジュールの中で、予定通りにサービスの提供を開始できたのは富士ソフト様のおかげだと感謝しています。いつも我々に寄り添い、数々の要望に真剣に対応して実現していただけたのは、実力がある企業だから出来たこと」と、これまでの対応を評価していただきました。
詳細な運用設計、データ特性を考慮した処理分散とCI/CDパイプラインも順調な運用に貢献
システムが順調に稼働していることについて、運用保守を担当している富士ソフトの細井敏は、「運用設計に関してもTOTO様に時間を割いていただき、AWSの監視項目設定といった細部まで打ち合わせを行い、決定できたこと」だと語ります。
また、松井はAWS LambdaとAWS Fargateを採用し、接続するトイレ器具が膨大な規模で増大しても10年以上先まで大きな負担がなく、スムーズに運用できるサーバーレスコンピューティングを実現。さらに、データの特性によって処理先をAWS LambdaとAWS Fargateに分けて負荷分散したことも、スムーズな稼働に貢献していると言います。
さらに、開発環境で構築したものを、検証環境、本番環境で正しく展開する自動化の仕組みをAWS Codeシリーズを用いてCI/CDパイプラインで実現し、トラブルの発生を抑制。
「今回のシステムに関して、IoT、CI/CDパイプラインといった蓄積してきた知見とノウハウを最大限に活用できたと感じています」(松井)。
新たなサービスも開発し、導入先を積極的に拡大
策定された事業計画に基づき、引き続きTOTOで進められているのは、国内でのサービス導入先を拡大することです。そのために、各地で積極的な営業活動を展開しています。
また、島野氏はサービス内容について、さらなる価値創造をスピーディーに行っていきたいと語ります。
「その際には収集・蓄積したデータの新たな活用も重要になってくると思いますので、効果的な解析の視点や手法などについて、富士ソフト様からの提案やアドバイスを期待しています」(島野氏)。
石塚氏も、新規サービスの開発については、富士ソフトのサポートを期待していると言い、「当社でのサービス開発は始まったばかり。自社でサービスを開発し、サービス提供企業のサポートも数多く手がけ、豊富な知見を蓄積している富士ソフト様のアドバイスには、大いに期待しています」と話します。
さらなる事業推進に向けて富士ソフトとの関係性を強化
サービス開発に関しては、「ビジネスパートナーとしての役割を、存分に発揮してほしい」と、島野氏。
「当社がやりたいことを一緒に検討する中で、修正が必要だと感じたらはっきりと意見を述べ、新たな方向性を示してもらえる関係性を築きながら、今後も引き続きのご支援をいただきたいと思っています。」(岡永氏)。
期待に応えるため、富士ソフト社内のあらゆる部門との連携を推進
TOTOの期待に応えるため、富士ソフトでは本プロジェクトを中心に体制の整備を進めています。
富士ソフトが行った提案ミーティングに参加した細井は、「当社のプレゼンテーションにTOTO様からは多くの質問が寄せられ、新しい技術や仕組みを積極的に取り入れようとする姿勢を強く感じました」と言います。そこで、運用保守面でも安定稼働を推進する新たな技術導入を検討するとともに、「開発部門と協力してシステム全体の品質をより高める提案に取り組みます」と話します。
森田と松井は、「日々AWSは進化しており、昨日まで想像もできなかったサービスが実現できることも増えています。こうした新しいサービス、新しい機能について、いち早く理解を深め、TOTO様のビジネスにマッチする提案をスピーディーに行い、より良いサービスの実現に協力したいと思います」と語ります。
プロジェクトマネージャーとして矢田は、「富士ソフトが蓄積してきたサービス面からシステム面までのあらゆる知見とノウハウ、さらに新たな技術知識も投入し、TOTO様のご期待に応えていきます」と語り、プロジェクト内はもちろん、社内のあらゆる部門との連携強化を進めています。
TOTOミュージアム
創立100周年記念事業として、2015年8月に開設。受け継がれてきた創業の精神やものづくりへの想いとともに、新しい生活文化を創造してきた歴史と進化などが数多くの資料や映像で紹介。オンライン見学も実施されています。
導入サービス
今回取材に応じてくださった方
- TOTO株式会社
トイレ空間生産本部 IoT推進部
IoT推進グループ グループリーダー
島野 晃輔 氏 -
情報企画本部 ICT企画推進部
ICT企画グループ
石塚 健人 氏 - TOTOインフォム株式会社
システム開発本部 システム技術部
システム技術グループ グループリーダー
岡永 和光 氏
- 富士ソフト株式会社
エリア事業本部 九州支社 第2システム部
第2技術グループ 課長
江見 雅和 -
エリア事業本部 西日本支社インテグレーション&ソリューション部
第3技術グループ 課長
矢田 裕登 -
NIoTプロジェクト プリンシパルPM
細井 敏 -
ITアーキテクトグループ 主任/フェロー
森田 和明 -
NIoTプロジェクト リーダー
松井 美佳
TOTO株式会社
- 所在地:
福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1 - 代表取締役 会長 兼 取締役会議長:
喜多村 円
代表取締役 社長執行役員:
清田 徳明
代表取締役 副社長執行役員:
白川 敬 - 1.住宅設備機器関連の研究、開発、設計、製造、販売
2.国内外設備機器販売店への水まわり商品のコンサルティング営業 - 従業員数:
連結36,853名(2022年3月末時点)
- オフィシャルサイト:
https://jp.toto.com/