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web3

私は2019年にWeb2.0に関するFUJISOFT Technical Reportを書きました。そのコラムは、私がヤフー株式会社の社員だった2005年9月に発表された、インターネットビジネスの未来を予言したWeb2.0の白書について書いたものです。発表当時、まさに隕石が落ちたほどの強烈なインパクトを受け、非常に共感したからでした。それから15年以上経過しましたが、その間Web2.0以上のインパクトがあるWebの進化を感じたことはありませんでした。しかし、このところWeb3というBuzz Wordが世間を賑やかしているので、一体どのようなものなのか自分なりに深掘りして理解を深めてみました。

Web3はWeb2.0の延長線なのか?

「2の次は3だから、Web3はWeb2.0の次のインターネットの世界?」と思うのではないでしょうか?

私はその期待感と懐疑心を半分ずつ持ってWeb3を調べてみました。しかし、どうもWeb3にはWeb2.0を知った時ほどのインパクトや共感はありません。そもそもWeb2.0はメディア企業の O’Reilly社のティム・オライリー氏が2005年9月 にWeb2.0の白書「What is Web2.0」を発表したところから始まっています。ティム・オライリー氏はコンピュータ関連の書籍出版やカンファレンスの開催などを主な業務としている方なので、Webの世界を俯瞰的かつ客観的に広く捉え、技術やビジネスを評論する立場にいます。そのため、Web2.0の白書ではすでに世の中にあったWebサービスを具体的にWeb1.0とWeb2.0に仕分けしながらその違いと未来感を表現されており、理解しやすかったのです。


一方、Web3を調べていくと、そのルーツは仮想通貨Ether(イーサ)が動作するEthereum(Blockchain Platform)の創業者の一人であるギャビン・ウッド氏で、その未来観も自社のEthereum Blockchainを応用したサービスやビジネスが前提で、我田引水の感がありました。

そもそも、Web2.0では小数点がついた「2.0」ですが、Web3では小数点がつかない「3」です。ギャビン・ウッド氏がWeb2.0と一線を画しているという意味を含め、Web3.0と言わずにWeb3と言っているのかは計り知れないですが、Web3の世界観の前提は、彼の事業のEthereum Blockchainを前提にしたものに聞こえます。

つまり、Webの世界を広く語ったWeb2.0と、Ethereum Blockchainという局所的な技術を応用した未来観を語ったWeb3は、どう考えても同一線上にあるようには思えません。Web3は現在のWeb1.0やWeb2.0に置き換わる世界観ではなく、新たに生まれる世界観なのだと思います。

Web3とBlockchainの関係

Web3の世界観を支える技術はBlockchainです。Web3の本質を知るためにBlockchainのソフトウェアの誕生背景を調べてみました。

Web3のベースとなっている「Ethereum Whitepaper」を読んでみると、最初に「Satoshi Nakamoto's development of Bitcoin」と言う文章がありました。「ん? BitcoinのBlockchainのアイデアとその開発者は日本人なのか??」と興味が湧き、さらに深掘りしてみました。しかし、どうもサトシ・ナカモト氏がどんな人物なのかが見えてきません。それどころか、日本人であるかどうかも分からない状況です。でも実際にBlockchainが生まれたのだから、それを発想した人がどこかにいたのでしょう。

いずれにしても、Blockchainの起源は仮想通貨Bitcoinを実現するためにサトシ・ナカモト氏が以下のような要件を満たす技術としてインターネット上のソフトウェアを設計したことなのではないでしょうか?

  1. 特定の人やサーバが管理せずとも運用が可能な自立分散システムであること
  2. 運用の超安定稼働(1つや2つのサーバが使えなくなっても運用がずっと継続されること)
  3. データ(取引ログ:台帳)の改ざんが事実上不可能なことによるデータ透明性(信頼性)の確保

それゆえ、Blockchainはマーケットイン(市場のニーズに合わせた商品開発)で生まれた技術だと言えます。しかし人々は、先述した3つの要件が仮想通貨以外の様々なシステムのデジタルデータにも活用可能だと気付きはじめました。その最初の人物が先述のギャビン・ウッド氏と言えるのかもしれません。つまり、Web3は仮想通貨のBlockchain技術の応用を端として考えられたプロダクトアウト(差別化技術が先にあり、そこから作れる商品開発)サービスだと言えると思います。

Blockchainは何を解決するのか?

デジタルデータは以下のような特徴があります。

  1. アナログデータより送信が圧倒的に速い
  2. 情報が劣化しない
  3. 情報の修正が簡単

デジタルデータが生まれた当初は、これらの特徴がメリットになるデータがデジタル化されました。例えば、写真、音楽、映像などのメディアデータは、デジタル化した方が品質や配布においてメリットを享受しやすいと言えます。アナログのオーディオプレーヤーやデジタルビデオカメラは単体で音楽や映像などを楽しむ商品でした。しかし、デジタル化されることで音質や画質が高品位化され、物理的なメディアが小さくなり、データが共通化されるようになりました。また、PCなどのデバイスでもデータの編集や保管、インターネット配信が可能となり、デジタル化ゆえの様々なメリットがありました。一方で、デジタルで扱うがゆえのデメリットも出てきました。その代表的な課題が著作権です。デジタルデータは劣化することなく同品質を保てる特徴を利用して、著作権者の意図に関わらず簡単にコピーされてしまう問題がありました。その課題を解決するために生まれた技術がデジタル著作権管理(DRM:Digital rights management)です。このように一つひとつのデメリットを克服しながら、デジタルデータで扱える分野が広がり進歩してきました。その中でBlockchainは、これまで解決できなかったデジタル台帳データの耐改ざん性や信頼性の課題を克服したソフトウェアと言えるのではないでしょうか?

Blockchainの進化とバリエーション

オープンソースであるBlockchainは、そのバリエーションがすでに数千種類もあるそうです。仮想通貨が世の中に1万種類以上もあるそうなので、それぞれの仮想通貨にBlockchainが活用されているのであれば、数千種類のバリエーションがあっても全く不思議ではありません。また、Web3で語られているBlockchainは世界初の仮想通貨BitcoinのBlockchainでは実現できず、後にEthereumに追加された「SmartContract」というプログラミング環境があって実現できるとのことなので、Blockchainも常に進化しているのだと思います。

以前から、自分のFacebookの友達で、Blockchainを開発したという内容の投稿を頻繁にしている方が気になっていました。私がソニー株式会社の社員の時代に一緒に仕事をしていた方で、その後、楽天Edy株式会社を創業され、さらにその後ソラミツ株式会社というBlockchainのベンチャー企業の社長になられた宮沢 和正さんです。Web3/Blockchainの深掘りにあたって宮沢さんに色々聞いてみました。


そもそもソラミツ社がなぜ注目されているのかを尋ねると、開発したBlockchainのオープンソースコードがLinux Foundationのブロックチェーンのプロジェクトの1つに採択されたからとのことでした。260以上のエントリーに対してわずか3社(ソラミツ社、IBM社、インテル社)だけが採択され、日本企業としては唯一かつベンチャー企業がIBM社やインテル社などの超巨大IT企業と肩を並べる技術を世の中に提供したことで注目されたそうです。今では「Hyperledger Iroha」として誰でも利用可能なのですが、その後さらに凄いことが起こりました。カンボジアが国の通貨をデジタル通貨にも対応したのですが、そのデジタル取引台帳の基幹システムをHyperledger Irohaベースに構築したそうです。日本で例えるなら、日本銀行(中央銀行)が円をデジタル通貨にも対応させてPayPay等と同じようにスマホで扱えるように大規模な改革を成し遂げ、その基幹システムがベンチャー企業の開発したBlockchainのソースコードがベースになっているようなものです。


現在の日本の金融を見てみると、数千億円をかけ大手IT企業が束になって作った銀行システムが未だ頻繁に停止します。どう考えても既存システムのアーキテクチャがもはや古すぎるのではないか?と思えて仕方ありません。それだけ、Blockchainには世の中のシステムを変えてしまうパワーがあるのだと感じました。

PublicかPrivateか?

BlockchainにはPublic型とPrivate型があります。BitcoinやEthereumなどのBlockchainはPublic Blockchainと呼ばれ、P2P(ピアツーピア)で情報交換に使用されるノード(サーバー)がインターネットの世界に広くオープンに置かれています。またそのノードには誰でも参加できます。一方、許可された特定のノードだけで構成されるBlockchainはPrivate Blockchain(もしくはManaged Blockchain)と呼ばれています。Web3で語られている「DAO」、「NFT」、「Defi」などのサービス※は、全てPublic Blockchainが前提ですが、Private Blockchainに関して語られている白書や書籍はあまり見かけません。しかし、先述したカンボジアのデジタル通貨の基盤にPrivate Blockchainが使用されたことから注目が高まり、各国の金融庁が俄然 Private Blockchainの研究に取り組んでいるそうです。将来の金融や企業内では間違いなく、このPrivate Blockchain技術が使用されると思います。

※DAO:Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)
 NFT:Non-Fungible Token(偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)
 Defi:Decentralized Finance(分散型金融)

Blockchainの可能性

Blockchainの応用は仮想通貨やDAO、NFT、Defiなどのサービスくらいなのでしょうか?

正直言って、このどれも現在の私には必要ではありません。Blockchainそのものが保持しているのは、Tokenと呼ばれるデータです。これまでのコンピュータシステムやインターネット、もしくはイントラネットではデータのほとんどがデータベースに保持されてきました。しかし、Blockchainの出現により、インターネットにおけるデータの保持方法が2種類になりました。これはある意味凄いことです。未来に生まれるシステムにおけるデータの保存方法は、データの特性で高速性や検索性を要求される場合はこれまで通りデータベースに格納し、耐改ざん性や運用継続性を強く求める場合はBlockchainを選択するようになるのではないでしょうか?そのくらいBlockchainは、台帳データ保存における革命的な新技術のように映りました。

Tokenの標準化と相互運用性

インターネットは通信プロトコルの標準化(IETF)や、ブラウザーやWebの標準化(W3C)などによって、世界中のコンピュータが相互にコミュニケーションを取ることができるようになり普及してきました。Blockchainはどんな台帳データも保管可能ですが、データフォーマット(データ構造)がバラバラではBlockchain同士でデータの交換ができません。特に仮想通貨が相互交換できないのは致命的だと思います。それゆえEthereumを中心に、積極的にTokenの標準化を進めていて、その標準がERC(Ethereum Request for Comments)として普及しつつあります。標準化を推進するのがインターネットの標準化団体(IETFやW3C)ではない点を見ても、やはりWeb3はWeb2.0の延長線上ではないことが見えてきます。一方W3Cも、Blockchain向けと言うわけではありませんが、ユーザーが自分のIDや属性を自分で管理できる分散ID(DID:Decentralized Identity)を規格化しています。Blockchainは、様々な異なるBlockchainのネットワークを接続して、お互いにデータを交換し活用していますので、DIDをBlockchainに保管することは、そのようなBlockchain同士の相互運用に有効だと見られています。

今後、様々な業界でBlockChainが利用されると、その相互運用性にために必要となる「Token」の標準化がBlockChain関連企業における覇権争いの場になるのかもしれません。

最後に

今回はWeb3のサービスの説明ではなく、その根底にある技術Blockchainに関する考察でした。Web3で言及されているDAO、NFT、Defiについては、もう少し勉強してからお伝えしたいと思います。

後編はこちら
Web3/Blockchainについての私感(後編)

 

 

この記事の執筆者

坂東 浩之Hiroyuki Bando

経営サポート部

知的財産