Twitter
Facebook
Hatena
web3

前編ではWeb3/BlockChainについてと言いながら、ほぼBlockChainの技術的な話で終始してしまいました。私自身が技術者なのでBlockChainの技術的理解が先に走りましたが、もう一方のWeb3の本質を理解できなければ、未来のインターネットを解ったことにはなりません。今回は技術としてのBlockChainではなく、その上に実装されるサービス群のWeb3とは何か、私なりの解釈を説明します。

サトシ・ナカモト氏の思い描く世界

前編で、Web3の背景にある技術はBlockChainであり、そのBlockChainは仮想通貨BitCoinを実現するために生まれたと説明しました。それゆえBitCoinが生まれなければWeb3の思想もなかったと思います。そのBlockChainの最初の設計・開発者は、未だ顔写真もなく、どこの誰かも解らないサトシ・ナカモト氏であるらしいとも説明しました。それゆえ、「サトシさん、あなたは何を思って仮想通貨BitCoinを作ったのですか?」という質問をぶつける相手もいません。しかし、彼は間違いなくBlockChainのアルゴリズム・ソフトウェアをこの世に残しました。そこで、サトシ・ナカモト氏が思い描いたであろう世界を想像してみることにしました。

仮想通貨は何のために?

そもそも通貨とは何なのか?

私の解釈では、通貨はそれを仲介(媒介)することで違う価値のモノ同士を交換できるインフラです。例えば、日本円は日本国においてのみ通用します。それは日本国政府が日本国内においては円という通貨を保証して発行しているためであり、誰もが安心して利用できます。別のある国の通貨もまたその特定の領域(国、政府)にしか基本的には通用しません。このように、世界196カ国に対して通貨もほぼ同じ数だけあり、それぞれの通貨を両替によって同じ価値の別の通貨に交換することで、世界の中のどの国とでも経済が成立していると考えています。

一方、インターネットには国境がなくこの地球上に1つしかありません。それにもかかわらず、BitCoinが生まれるまでは、インターネット上での経済活動には円やドル、ポンドなどのリアルな国の通貨が利用されていました。それゆえ、サトシ・ナカモト氏は、「インターネット国(以下 ネット国)」の通貨として新たに仮想通貨BitCoinを作ろうとしたのではないでしょうか?

ネット国はリアルな国とは違い、誰かの統治や管理を受けて誕生したわけではなく、皆が自由かつ平等に繋がり、参加してできている世界観です。BlockChainは、誰か特定の管理者が通貨を発行したり、取引を管理したりするのではなく、インターネット上のサーバー同士が平等に取引し、資産を改竄できないようお互いに監視する、インターネットの精神を引き継いだ仕組みとしてサトシ・ナカモト氏がBlcckChainを作り、ネット国の通貨取引を管理しようとしたのではないでしょうか?

サトシ・ナカモト氏の技術の応用がギャビン・ウッド氏の思想のWeb3か?

サトシ・ナカモト氏はネット国に仮想通貨をもたらしました。そしてその後、雨後の筍のように同じ技術を用いた様々な仮想通貨が生まれました。Web3の思想を発表したギャビン・ウッド氏もその一人で、イーサリアムという仮想通貨を作りました。しかし、彼の目指す先は、単に仮想通貨を普及させることではなかったようです。ギャビン・ウッド氏が何を考えたのか、想像してみました。

リアルな国の経済活動とネット国での経済活動

リアルな国における経済活動の歴史を紐解いてみると、最初から通貨があったわけではなく、まずは「価値あるモノ」があり、そのモノ同士を交換、いわゆる物々交換していました。原始時代はまさに漫画作品「ギャートルズ」のように狩りで取った肉と農耕で収穫した米、釣った魚などを物々交換していたのでしょう。後に、国などの統治者が保証し信頼できる媒介物として通貨が生まれ、価値あるモノの交換が便利になりました。すなわち、通貨より先に価値あるモノが存在し、その後にモノの価値を通貨の価値に紐付けることで、経済が発展しました。しかし、ネット国では、価値あるモノとは関係なくBitCoinなどの仮想通貨が生まれました。ネット国にも価値あるモノはありますが、仮想通貨とはほとんど紐付けられていません。そう考えると、Web3は、「これまで人々が気付いていないネット国に存在する価値あるモノ」を提示しているのではないでしょうか?

ネット国の組織構造はDAO(分散型自立組織)か ?

リアルな国の労働とは、例えばある会社に属し、その会社に奉仕して収入を得て経営に貢献することでしょう。会社はその国の法律に則り、ほとんどの会社が社長を頂点とした経営陣と管理職と社員という階層構造になっています。一方、ネット国は自由と平等を精神としているので、その組織のあり方も、所有者や管理者はなく皆平等で、参加・不参加も自由、参加するメンバーが主体的に共同所有し、共同管理するというDAO(分散型自立組織)の考えが生まれたのだと思います。活動の透明性も特定の管理者が管理するのではなく、BlockChainのシステムで行います。DAOは、そのような組織構造と管理方法があっても良いのではないか、という提案のように思えました。

ネット国の価値あるモノの証明はNFTか?

リアルな国の価値あるモノは、例えば農産物、自動車、石油など有形の物がありますが、ネット国はサイバーの世界なので価値あるモノは無形、デジタルなものがほとんどではないでしょうか?無形のモノなので手元に保管できず、デジタルは容易にコピーができてしまう特性のため、本物と偽物の識別がしづらくなります。

それゆえ、ネット国で価値あるモノを証明するには、BlockChainの技術を活用したNFT(偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ)のようなしくみが重要ではないでしょうか?

一方、リアルな国にも無形で価値あるモノを紙などの有形の物で証明するケースが多数あります。土地の証明書や運転免許証、パスポートなどがその一例です。物がある場合、劣化や紛失の可能性もあり、偽物も容易に作ることができます。だから、リアルな国でもNFTは有用な証明手法になるのかもしれません。

ネット国の金融活動はDeFiか?

お金に余裕がある人が、お金を必要とする人に、利息の支払いを条件にお金を貸すこと、つまり、お金を融通(貸し借り)することを金融といいます。金融を橋渡しするのは銀行などの金融機関です。

ネット国でも仮想通貨の金融は必要でしょう。やはり、ネット国における金融の仕組みもインターネットの精神を継承し、管理者や仲介者がいる金融機関はなく、DAOやNFTと同様にBlockChainの技術を活用したDeFi(分散型金融)として実現されるのでしょう。

ネット国とメタバース

リアルな国の場合、隣国に行くには国境を通ります。では、国境のないネット国へ行くにはどうしたらいいでしょうか?

近年、メタバースが話題になっていますが、メタバースはネット国に存在し、様々な新しいメタバースが生まれてきています。Web3とメタバースが生まれた経緯に直接の関係はありませんが、次世代インターネットという視点では、同時期に生まれたことが偶然だとは考えにくいのです。

サトシ・ナカモト氏が作ったBlockChainの技術によって新たにネット国の仮想通貨BitCoinが生まれました。ネット国にはメタバースの数だけ小国(ワールド)が生まれ、その国での経済通貨には仮想通貨が使用され、組織構造はDAO、モノの価値はNFT、DeFiも必要でしょう。つまり、ネット国はメタバースの小国が次々と生まれて、自由に参加し行き来できるWeb3経済圏のような世界なのかもしれません。

リアル国の通貨とネット国の通貨を両方持つマルチ通貨の世界

日本においては円の通貨を持っていれば生活に困ることはほとんどありません。しかし、ヨーロッパでは多くの国々が接していて、国境を越えて行き来するたびに通貨の両替が必要になります。両替手数料も発生します。例えば、1万円の両替で両替手数料として1%(100円とする)かかると、1回の両替で元金が99%(9.9千円)になります。10回両替すれば元金は90%(9千円)、100回両替するとなんと元金は37%(3.7千円)になってしまいます。それゆえ、ヨーロッパ圏の多くの国で通用するユーロ通貨があり、できるだけ両替をしないで済むように自国の通貨とユーロの両方を持つ生活が当たり前になっているのだと思います。まさに、マルチ通貨です。

リアル国の住人のネット国での経済活動が拡大していくと、いずれリアル国とネット国の両方で利用できるユーロのようなマルチ通貨を持つことが必要になるのではないでしょうか。将来ネット国に価値あるモノがどれだけ存在するかによると思いますが。それゆえ、Web3が普及したら日本においてもマルチ通貨を持つ生活があたりまえになるのかもしれません。

SF: 2040年のある青年のWeb3での一日の生活

今から17年後、2040年に誰もがリアル国とネット国とを行き来するような世界になったと仮定して、ある青年の一日の生活を想像してみました。

************************************
Aさんは22歳。今年から社会人になりました。Aさんは会社勤めではなく、あるデジタルコンテンツを作成するDAO組織「GD」に属しデザイナーとして活動しています。このGDではDAOに属した世界中のメンバーが共同でデジタルコンテンツを作成することを仕事としています。DAO組織ゆえGD運営のための経営者も管理者もおらず、好きな時に好きなだけ活動すればよく、成果はスマートコントラクト※のルールに従って評価されます。GDでは出来上がったコンテンツをネット上でNFTとして販売しています。GDはネットを経由して世界中とビジネスをするために仮想通貨で販売し、その売上はDeFiにより管理されています。そしてDAOメンバーにはDAOに記録された活動実績に従って、成果報酬がDeFiから仮想通貨で支払われます。それゆえ、Aさんの収入も全て仮想通貨です。夕方Aさんは仕事を終え、プライベートの買い物をするために、最近ブレイクしている地球規模のメタバースECサイト「THE EARTH」にログインしました。THE EARTHの通貨は全て仮想通貨です。リアル国の通貨を持たないAさんは、仮想通貨でスムーズに買い物。寝るまでにはまだ時間があるので趣味のゲームをしようと、最近人気のメタバースのゲームサイトで遊びました。ゲーム上の通貨も全て仮想通貨です。メタバースの世界で買い物とゲームを楽しんだAさんは、リアルの世界に戻って眠りにつきました。

※スマートコントラクト

BlockChainシステム上で、BlockChain上の取引やBlockChain外からの情報によって、予め設定したルールに従って実行されるしくみ

************************************

まとめ

人は肉体というハード(有形)と精神・思考・思想・ワークスタイルなどのソフト(無形)を持っています。インターネット有史以前、人々はハードもソフトもその人が属している国に存在するモノに束縛・影響を受けてきました。しかし、これから先の人々は、物心ついた時に、インターネットに存在する様々なネット国の中で自分のソフトと一番マッチするネット国を選んで移住してしまうかしれません。実際には肉体というハードがあるので、100%ネット国に移住することはできません。しかし、精神・思考・思想・ワークスタイルというソフトは移住できるのではないでしょうか?その兆候は既にあり、リアルで知り合った身近な友達よりSNS上で知り合う方が気の合う友達ができるという人もいるのです。前章に書いたSFのように、Web3はもはやWebと言うIT 技術を超えて、社会基盤や経済基盤の未来の1つの形を示しているように感じます。そう考えると、Web3の普及は世代を越えてゆっくりと、しかし着実に浸透していくのかもしれません。

前編はこちら
話題のWeb3/Blockchainについての私感(前編)

 

 

この記事の執筆者

坂東 浩之Hiroyuki Bando

経営サポート部

知的財産