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2024年12月26日

注目が集まるAWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」。開発のポイントとは?

生成AIといえば、OpenAI社の「ChatGPT」、Microsoft社の「Azure OpenAI Service」、Google社の「Gemini」、そして昨年9月にローンチされたAWS社の「Amazon Bedrock」が有名です。生成AIを利用したサービスの開発需要も急速に拡大してきました。富士ソフトは、産官学の取り組みの実施や、AIコミュケーションロボットの先駆けともなった「PALRO」開発など、AIの関わりを10年以上前から続けています。その知見を活かして、お客様の開発を支援する機会が増えています。今回は、なぜAmazon Bedrockが注目されているのか、生成AIを組み込んだ開発において注意すべきことは何か、担当者の森田 和明に、詳しい話を聞きました。

Amazon Bedrockの特徴

    以下の点でAmazon Bedrockを活用した開発が注目を浴びています。

  • AWSそのものの安全性に対する評価が高い
  • 小規模からでも始めやすい
  • 日本における普及度が高く、開発コミュニティも活発なため課題解決がしやすい一方で生成AIを組み込んだサービス開発の注意点としては以下が挙げられます。
  • 開発ゴールを明確化したうえで、選択肢の1つとして生成AIを検討する
  • 生成AIは万能ではないことを理解する
  • 生成AIの活用にはデータ整備が重要であることを理解する
登場社員のプロフィール
  • 森田 和明

    エリア事業本部 西日本支社
    インテグレーション&ソリューション部 ITアーキテクトグループ
    主任 / フェロー

    業務系Webシステム開発やモバイルアプリ開発の経験を経て、2015年頃からクラウド、特にAWS Lambdaに代表されるサーバーレスアーキテクチャに興味を持つ。サーバーレスのメリットを活かした様々なIoT案件に携わった後、2017年には「スマートハウスの実証事業」に従事。フルサーバーレスでのシステム構築を実現。現在はIoTだけにとどまらず、サーバーレスやコンテナを活用したプロジェクトの提案・構築に従事。著書に「Amazon Bedrock 生成AIアプリ開発入門 [AWS深掘りガイド]」(共著)あり。

Amazon Bedrockが支持される理由は、始めやすさにある

生成AIの登場により、これまで人が担っていた定型作業を生成AIに任せようとするニーズが高まっています。生成AIというと、OpenAI社の「ChatGPT」を真っ先に想像するかもしれません。しかし、AWS社のAmazon Bedrockも生成AIとしての精度は高く、他の有名な生成AIと比べて遜色ありません。Amazon Bedrockのサービス開始直後から日本国内でも利用が可能になり、現在では広く利用されている生成AIの1つです。

Amazon Bedrockが支持されている理由は、始めやすさにあります。もともとAWSは、セキュリティを重要視しており、クレジットカード業界の基準であるPCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)などの第三者認定を取得しています。安心して使える環境なので、さまざまな企業がAWSを利用しています。AWSをすでに利用している場合、APIを呼び出すだけでAmazon Bedrockが利用可能なため、非常に簡単に導入できます。

Amazon BedrockのAPIの呼び出し方は、AWSが提供するVPC(Virtual Private Cloud)やIAM(Identity and Access Management)といった、他のAWSサービスと同じ形式で呼び出しができるため、簡単に導入できます。利用できる生成AIモデルに魅力を感じてAmazon Bedrockを採用するケースがもちろん多いですが、「AWSが提供している生成AIサービス」という理由でAmazon Bedrockを選定されるケースもあります。

Amazon Bedrockは大企業だけでなくスタートアップでも導入が進んでいます。これはAWSが、スモールスタートで始めやすいエコシステムを構築しているからです。AWSはコミュニティ活動が活発なため、実際に使ってみた際の気付きや具体的なユースケースの情報が数多く公開されています。先行して取り組んでいる事例を参考にし、自社の業務改善や生成AIを使った新たなプロダクトの検討に活かすことができます。また、開発時に発生する問題もすでに解決方法が存在することも多いです。私もコミュニティに参加しているので、興味のある方は一度参加されることをおすすめします。

生成AIを組み込んだサービスは、現在進行形で裾野が広がっている

Amazon Bedrockに限りませんが、世界的に生成AIを組み込んだサービスの裾野は広がり続けています。いくつか事例をご紹介します。

Amazon Bedrockの活用例としてまず挙げられるのが社内での利用です。社内規定や業務マニュアルから必要な情報を探し出すのは、毎回時間がかかる作業です。そこで、生成AIを利用した「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれるシステムを構築することで、チャットのインターフェイスを通じて、知りたい情報を的確に取得できます。

また、外部向けのサービスとしてもAmazon Bedrockを活用する事例が出てきました。製品やサービスに対する問い合わせチャットボットを、生成AIを使って高度化するなどです。他にも、新しい事業やサービス、商品のデザインアイデアを検討する際に、自分では思いつかないアイデアを生成AIに生成させることもできます。

ただし、生成AIは誤った回答をしてしまうことがあり、必ず正しい回答をするとは言い切れません。ですが、100%正しくないからといって、検討から除外するのはもったいないと感じています。人間が対応したとしても誤った回答をしてしまうことがあり、どうやって正答率を上げるのか、誤回答の場合にどう影響を最小限にするのかといった対策も、我々SIerがご支援するべき範囲と考えておりますので、ぜひご相談いただければと思います。

生成AIのサービス開発で気を付けるべきこと

生成AIを活用する際の注意点としては、生成AIが万能のツールではないということです。
具体例として、「議事録の作成をしようとしたが、期待した結果にならなかった」という声を聞きます。

こういった現象は、実は生成AIにわたすドキュメントがきれいでない場合があります。マイクで収録した音声データから文字起こしをした場合に、そもそもマイクの性能が低かったり、周囲の雑音が大きかったりするなどが原因で、うまく収音ができていない場合があります。ある程度生成AIが補完してくれることもありますが、文字起こしの段階で欠落している情報は議事録として残すことができません。このようなケースでは生成AIの精度向上ではなく、入力データの品質向上を先に行う必要があります。

もう1つの注意点として、生成AIは計算処理が苦手ということを理解しておく必要があります。Anthropic社の「Claude 3モデル」では、画像を入力できるようになりました。そのため、レシート画像から品目や金額を抽出することができます。複数のレシート画像から金額の合計を求めたい場合では、情報の抽出は生成AIを活用し、計算処理はこれまで同様プログラムロジックで行うことがベストプラクティスとして知られています。

一方で、生成AIは多様なアプトプットの生成は得意なので、小売店のPOP作りを行う事例も出てきています。

人が手作業で行う場合には、どうしても考えられる数に限界があります。生成AIを使うと1つの商品に対してさまざまなバリエーションで生成できるだけではなく、今までPOPづくりの対象外だった商品に対してもPOPを作成することができるようになります。POPの文章を考える部分を生成AIに託し、どのPOPを採用するかを人が判断するといったように、AIに任せる領域と人が対応する領域を見極めることが大切です。

開発が進みやすいパターンと進みにくいパターン

Amazon Bedrockを使った開発に携わってきた中で、開発が進みやすいパターンと、進みにくいパターンがあると気づきました。

開発が進みやすいパターンは、お客様が具体的イメージをもっている場合です。お客様自身が普段から生成AIを触っていて、できそうなこと、できなさそうなことが、肌感覚でわかっている場合、着実に開発が進みます。そういったお客様からは、「こういうことができると思うのだけど、できないだろうか」といったご相談を受けることが多く、生成AIを使いたい事情がはっきりしています。開発スタート時に生成AIに触れている必要はないですが、開発中に自分でも触ってみようというお客様のほうが、着実に結果が出ている印象です。

逆に開発に進みにくいパターンは、「とりあえず生成AIを使って何かしたい」といった場合です。生成AIを利用すること自体が目的になっていると、どこかのタイミングで開発は行き詰ってしまいます。課題を深堀りすると、実は生成AIでは実現が難しいことや、生成AIを使わなくても解決できることもよくあります。そのようなお客さまには、最終的にやりたいことに向けた最適解を導けるようにご支援をしています。

小さく始めるのがポイント

Amazon Bedrockを使ってお客様のサービス開発を支援する際、「まずは少し触ってみましょう」と提案しています。まずは肌感覚で生成AIについての理解を深めることで、より具体的にサービスをイメージして、生成AIでできそうなこと、できなさそうなことに考えを巡らせることも可能になります。

富士ソフトでは、「Amazon Bedrock導入ソリューション」を提供しています。Amazon BedrockとチャットができるWebインターフェイスだけでなく、自社ナレッジを取り入れたRAGを標準で実現できる構成となっています。機能が不足している部分については追加開発で対応可能なため、まずは小規模で始められます。

目的は生成AI導入ではなく、お客様の課題解決

生成AIに関する取り組みは小規模で始めるのがポイントですが、プロジェクトを進めていく中ではさまざまな課題が発生します。発生する課題には、プロンプトエンジニアリングと呼ばれる生成AIの使い方で改善できるものもありますが、生成AI以外の部分で発生する課題も多くあります。

生成AIに与えるデータを整備したい場合でも、データのフォーマットや保管場所、権限などの状況を考慮したうえで解決する必要があるので、お客様ごとに対応方法が変わってきます。生成AIを活かすためには、現行のシステムや業務にどうフィットさせるかというシステム開発の部分が重要となります。

当社ではこれまで数多くのシステム開発を行ってきた実績がありますので、その知見を活かし、お客様が実際の業務で生成AIを活用するためのご支援が可能です。APIで利用する生成AIだけにとどまらず、画像を使った外観検査や自然言語処理などの分野でも対応可能なAIの専門部門がありますので、安心してお任せいただければと思います。

私は、生成AIを使うことは目的ではなく課題解決のための1つの手段であると考えています。お客様から、生成AIを使って課題解決をしたいとご相談をいただく機会は多いですが、他にも効果的な方法があれば、そちらをご提案するように心がけています。

※ Amazon Bedrockは、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
※その他記載の会社名、製品名は各社の商標または登録商標です。