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2024年12月2日

AI行動解析で生産性改善!工場におけるAIネットワークカメラ活用の最前線

近年、製造業ではスマート工場実現に向けたDXが加速しています。富士ソフトは、製造業のDXをさらに推進するため、大量の動画データから工場作業員の行動検知・異常検知を行う「異常行動検知AI」を開発しました。さらには、この「異常行動検知AI」をi-PRO社製ネットワークカメラに搭載し、実用化に向けた工場での実証実験を経て、2024年12月より、「異常行動検知アプリケーション FABMonitor(以下「FABMonitor」という)」として提供を開始しています。

「異常行動検知AI」は、当社が独自開発した「次元圧縮AIエンジン」を活用することで、大規模な動画データを高速かつ高精度に解析できる点が特徴です。これにより、従来AIが苦手としていた、大量の動画データから異常行動の検知が瞬時に可能となり、製造ライン管理者の負荷を大幅に軽減します。とくに、少量多品種生産において頻繁に発生する製造ラインの設定変更にも迅速に対応でき、安全性の確保、生産性の向上、品質の向上に貢献します。

本記事では、野村 悟、木田 枝里子に話を聞き、「FABMonitor」のコア技術である「次元圧縮AIエンジン」の技術開発と実用化に至った経緯をご紹介します。

「FABMonitor」の特徴

工場内のネットワークカメラで撮影した動画をAIで解析し、作業員の行動検知・異常検知を行います。AIに学習させた最適行動と、作業員の行動を比較し、無駄やミスを誘発する行動を検知します。異常が検知されたら速やかにスマホ端末などにアラートが飛ぶため、迅速に対応することが可能です。また、管理者は製造ラインを監視し続ける必要がなくなるため、負荷の軽減にもつながります。「FABMonitor」ではAIにかかる負荷を軽減させる独自技術を用いることで、製造ラインの切り替えに伴うプログラム変更もスムーズに行えます。

登場社員のプロフィール
  • 野村 悟
    ASI事業部 AIシステム部
    次長/フェロー

    FA機器や医療機器メーカーにて画像解析システムの研究開発を経て富士ソフトに入社。入社後は、カーナビゲーションなどの車載開発の経験を経て車載分野での画像解析&AI技術を主軸に自動運転、自律動作マシン技術とあわせて先行開発や研究に従事している。お客様、大学様、当社の産学連携での研究やお客様への研究支援にて共同特許を複数取得している。現在は、AIを上手く活用して市場に存在しないシステムの企画、提案~実現に向けて取組中。

  • 木田 枝里子
    ASI事業部 AIシステム部

    エンジニアとして画像処理の案件に従事し、その後AIを使った案件に携わるようになる。現在は、AIを使った新製品の開発・販売準備やプロモーションを担当している。

従来の行動異常検知ツールでは、少量多品種製造に適合しきれない

日本の製造業では、ネットワークカメラの導入が進んでいます。たとえば、カメラで撮影される映像を管理者が確認し、作業者の行動異常や生産性の悪化につながる非効率な作業を見つけたら、指導を行うことで生産性を維持・高める取り組みなどが挙げられます。

従来は管理者がリアルタイムの映像をチェックしていましたが、AIの進化・普及に伴い、自動的な行動検知・異常検知を行うサービスが増えました。ネットワークカメラで製造ラインを撮影し、生産性悪化につながる行動や異常を検知したらアラートが上がる仕組みです。

単一製品を製造し続けるラインであれば、これまでのAI解析技術でも対応できていました。行動検知・異常検知に用いるプログラムやAIの設定値を変更することがないため、変更作業の業務負荷が小さかったからです。しかし近年は、製造ラインを頻繁に入れ替えるなどで、少量多品種を製造する柔軟性が工場に求められるようになっており、作る製品が1日に3回入れ替わることもあります。そうなると、製造ラインを入れ替えるたびに、プログラムやAIの設定値を変更しなければならないのです。

プログラムやAIの設定値の変更には時間がかかります。従来のシステムでは、管理者がお昼休みなどを使い、30分から1時間かけて入れ替え作業を行わざるを得ない状況になっていました。お客様から「製造ライン入れ替えに伴うAIの設定変更に時間がかかる。なんとかならないだろうか?」「AIが苦手な部分を克服できないか?」とご相談をいただいたことがきっかけとなり、お客様の工場で課題解決に向けた技術開発に取り組むことになったのです。

業界初の次元圧縮AIエンジンで解析処理の負荷を大幅軽減

先にご紹介したとおり、お客様の現場で課題になっていたのが、プログラムやAIの設定値の変更に時間がかかる点でした。AIで行動検知・異常検知を行う場合、正しいとされる動きなどを事前に撮影し、AIに学習させるのですが、映像を学習させるための動画処理に大きな負荷がかかるからです。

ネットワークカメラで撮影した映像をAIに学習させることは、それほど難しくないと感じる方も多いはずです。しかし実のところ、AIは画像データの処理は得意ですが、画像データが連なった一連の動画データの処理は苦手なのです。動画を処理させるためには、大規模なネットワークと処理能力が必要になります。

たとえば、人が歩いているときの骨格を解析するとします。顔からつま先まで30~40点の関節がありますが、1/30秒単位で画像解析するとしたら、1秒で900~1,200点のデータ処理をし続ける必要があるのです。それを各製造ラインで動く作業員に広げると、膨大なデータ処理になるため、行動検知プログラムやAIの設定値を変更する際、処理に時間がかかってしまうのです。

この問題を解決すべく開発したのが、「次元圧縮AIエンジン」と呼んでいる解析技術です。撮影した画像の中から抽出するデータを厳選することで、データ量を圧縮します。人が見落とす特徴をAIが抽出できるようにすることで、少ないデータでも良し悪しの判断ができるようになりました。この「次元圧縮AIエンジン」によって、従来は5秒間に300枚処理していた画像データが5枚程度にできるなど、大幅な圧縮が可能になります。また、ネットワークカメラ側にも一定のエッジ処理をさせることで、中枢AI側にかかる負荷も大幅に下げることができるようになりました。

従来であれば撮影した動画を半日・1日かけてAIに学習させていましたが、次元圧縮AIエンジンを用いることで学習に必要なデータ量が減り、限られた時間で多くの製造パターンを学習できるのです。この技術をネットワークカメラに取り入れることで、頻出する製造ライン入れ替えにも対応できると考えました。加えて、手軽に学習データを変更できることから異常行動検知だけではなく、たとえば、「熟練者の動画をお手本として学習させ、未熟な作業員との違いを検知する」といった教育目的に使用するなど、異常行動検知以外にも活用の幅があると思います。

汎用ネットワークカメラとの連携で導入ハードルを下げる

「FABMonitor」で使われている次元圧縮AIエンジンは、低負荷なだけでなく、汎用ネットワークカメラに対応している点も、お客様にとってメリットがあります。

汎用製品なのでハード価格も比較的抑えられ、ネットワークカメラを導入済みの場合でも、特殊なOSを使っていない製品であれば、そのまま活用することもできます。当社はi-PRO社の代理店であるため、まだネットワークカメラを導入済みでないお客様に対しては、AIとセットで導入をご支援することも可能です。

汎用ネットワークカメラと連動した次元圧縮AIエンジンは、他社に先駆けて開発した技術で、私たちが知る限り同種技術はありません。ネットワークカメラ側にエッジ処理をさせない中枢解析型や、独自開発されたネットワークカメラを使ったものはありますが、どれも高価で簡単には導入がしにくい状況です。

もう1つのメリットとして、カメラの設置場所の自由度が高い点も挙げられます。「FABMonitor」は作業者の正面や手元が写る位置にカメラを設置しなくても、「異常行動検知AI」により作業者の行動検知が可能です。今までカメラが取り付けられなかった工場にも設置できるようになります。

現場の実データに基づいて開発・検証して精度を担保し、商品化に至った

次元圧縮AIエンジンは、測定する画像データ数が少ないことから精度が気になるかもしれません。冒頭でもご紹介した通り、「FABMonitor」はお客様の工場現場をお借りして開発を進めました。少量多品種を製造する、大手自動車部品メーカー様です。実際の現場でデータ蓄積・検証・チューニングができたことは、非常に力強い後押しになりました。実態に基づいた開発を行えた結果、精度もしっかりと担保することができ、商品化ができると実感するに至りました。

加えて、AIのメリットの1つである品質の平準化も実現できます。管理者にもさまざまな人がいて、作業員に求める精度やスピードに違いがあります。Aさんが管理者のときは製造ラインが「作業は遅いが精度は高い」状態で、Bさんが管理者のときは「作業は早いが精度が低い」といったパターンがあるのです。それに対してAIは、管理者側による作業工程のばらつきを平準化し、どの管理者でも同程度の精度で行動検知できるようにサポートしてくれます。

工場のみならず、さらに広がる「FABMonitor」の用途

「FABMonitor」は製造業の工場における導入を想定していますが、他業界においても活用の余地があると考えています。

たとえば、運転中の危険行動の検知です。居眠りや脇見だけでなく、スマホ操作や飲食など、事故につながりやすい行動を検知してアラートを出すことができます。また、小売店などの店舗でも活用できる可能性があります。特定商品に興味がある消費者の行動を学習させて、購買意欲が高い来店客を特定する方法です。商品を手に取ったり、長く説明を読んでいたり、といった行動を検知できます。また、防犯面での活用も期待できます。

次元圧縮AIエンジンの本質は、検知したい行動を柔軟に学習し、カメラなどのエッジ処理と合わせて、AIで行動検知・異常検知を行う場合の処理にかかるさまざまな負荷を軽減できる点にあります。当社は、今後も製造業をはじめ、幅広い業界で継続的な技術開発を行い、お客様にとって最適なソリューションを提供できる技術パートナーでありたいと考えています。「こんなことは難しいかな」と感じるようなことでも結構ですので、ぜひお気軽にご相談ください。