コスト削減と事業成長を同時に実現。「BizDevOps」が切り拓く、ECサイト運営の新時代
IT技術が業界を問わず浸透し、各社がデジタル化や効率化に力を入れることで、ECサイトをはじめとするWebサービスは競争が激化しています。そんな環境下で、事業を成長させていくには、単に技術面だけでなく、ビジネス視点を取り入れたシステム開発アプローチが不可欠です。そこで注目されているのが「BizDevOps」という概念。これは、運用まで意識し、開発部門(Development)と運用部門(Operation)が連携しスピーディに安定したシステムの開発を行う「DevOps」にビジネスの観点を(Business)を加えたもの。ビジネス・開発・運用の各部門が「事業成長」という同じ目的のために連携し、ビジネス要件を満たした成果につながるシステム開発・運用を行っていくものです。
富士ソフトは、2010年からBizDevOpsの概念を実践するサービス、「富士ソフトBizDevOps」の提供を開始し、業界のパイオニアとして多くの支援を行ってきました。本記事では、富士ソフトのシステムインテグレーション事業本部ビジネスソリューション事業部の蒲谷 大介、大石 淳、中村 和弘が、BizDevOpsの本質、その実践方法、実際の導入効果について詳しく解説。EC事業者が直面する様々な課題に対し、「富士ソフトBizDevOps」がどのような解決策を提供できるのか、その可能性を探っていきます。
- ECサイト運営における要求の肥大化
- 開発・運用コストの増加
- ビジネス的に本来やるべき開発の停滞
- お客様のKPIに基づいた解決策の提案、要求整理による開発規模の圧縮
- 先を見据えた実装、運用・保守のしやすさを考慮した設計による、障害数や問い合わせ数の減少
- ビジネス的な成果につながる、開発の実現
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蒲谷 大介
1999年富士ソフト株式会社入社。携帯電話顧客情報システム開発に従事。2010年からショッピング、オークション、BtoB向け販売サイトの全体統括として参画しサービスの成長に寄与。成長させたサービス数は20を超える。現在、富士ソフト株式会社 システムインテグレーション事業本部 ビジネスソリューション事業部 事業部長。
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大石 淳
2001年富士ソフト株式会社入社。業務アプリケーションシステム開発に従事。2010年からショッピングサイト開発運用保守PJ 、ショッピングサイト新規立ち上げ、事業譲渡対応、クラウドシフト対応を経験後、BizDevOps推進活動に取り組んでいる。現在、富士ソフト株式会社 システムインテグレーション事業本部 ビジネスソリューション事業部 副事業部長。
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中村 和弘
1997年富士ソフト株式会社入社。業務アプリケーションシステム開発に従事。2002年よりショッピングサイト開発に従事。2010年からショッピングサイト開発運用保守PJに対応。大規模ECサイト開発において、最大150名を超える技術部隊の技術統括責任者として高可用性のサービスを提供。また24時間365日で実施される運用保守においても長年のノウハウを生かし、システムの安定稼働に貢献している。現在、富士ソフト株式会社 システムインテグレーション事業本部 ビジネスソリューション事業部 主任(フェロー)。
提供すべき価値は、システム開発自体ではなく、お客様の事業を成長させるシステム
システム開発をよりスピーディに、かつ運用・保守しやすくするDevOpsという概念は以前からありました。しかし、DevOpsのもと開発を進めても、ときにはビジネスの成果に直結しない開発が行われてしまうことがありました。開発したシステムや機能が、結果的に売上向上やコスト削減といった、事業の成果に結びつかない状態です。
そこで、DevOpsに「Biz」の観点を加えた「BizDevOps」が生まれました。ビジネスの観点を加え、「何を作ることが事業成長に必要なのか?」から考え開発することで、成果につながるシステムをつくることができます。また、事業の成果として世の中に価値を提供することは、エンジニアにとってやりがいにもつながります。「経営視点、サービスの提供者視点を加味した開発・運用・保守がしたい」その想いが「富士ソフトBizDevOps」の原点です。
サービス化に行き着いたのは、EC事業を展開するお客様から新規事業を任されたことがきっかけです。当時、お客様の事業責任者は「競合に勝つためにはこの機能も、あの機能も盛り込む必要がある」と考えていました。私たちはご要望に沿って機能を開発しましたが、追加した機能に見合った売上が達成できず、その新規事業は撤退。お客様の力になれず悔しい思いをしました。「私たちが行うべき価値提供は、システムを開発すること自体ではなく、お客様の事業が成長するシステムを作ることだ」と考え、開発担当も運用担当もサービスが発展することを考える「富士ソフトBizDevOps」のサービスに行き着きました。
要求の肥大化や開発・運用のコスト増加を解決へ
前述の企業以外のEC事業者からもよく相談を受けるのが、以下の3つです。
- ビジネス部門との足並みが揃わず、要求が肥大化してしまう
- あとから出てくる追加機能開発や、手運用が増え、開発・運用コストが増加してしまう
- 開発優先順位がつけられず、ビジネス視点では本来やるべき開発が停滞してしまう
これらの課題に対し、「お客様のKPIは何か」「その達成に向けて何ができるか」をすり合わせ、解決方法を一緒に模索し解決するのが、「富士ソフトBizDevOps」です。
これまでのノウハウを元にした先読みと拡張性を考えた実装
当社の特徴はBizDevOpsを一気通貫で行えること。最近はコンサルティング企業などもBizDevOpsでの支援をはじめています。しかし、多くのコンサルティング企業はビジネス観点の提案はしますが、実際の開発・運用まで自社でやるケースは稀です。一方、システム開発会社などのベンダーは開発・運用の部分に特化しているケースも多くあります。当社では、ビジネス観点での提案から、開発・運用まで、一貫してやりきる体制をとっています。これは、2010年からBizDevOpsに取り組み、さまざまな企業を支援した中でノウハウを蓄積してきた当社ならではの強みです。
また、開発フェーズに関しても、お客様から「Aを作りたい」と言われたら、それに沿ってAを作るベンダーは多いでしょう。しかし、当社はこれまでのノウハウから「今後、追加機能の搭載を検討してA’になるかもしれない」と先読みし、その確率を検討した上で、拡張性を考慮した提案・実装をします。例えば、「カード決済機能を入れてください」と言われたら、「バーコード決済機能も追加で必要になるかもしれない」と先読みするのです。「その余地を残しておくべきかどうか」「その可能性がどれだけあるのか」「確率が低いのであれば、拡張性を持たせても工数とコストがかかってしまうのでやめておこう」と、ビジネスの未来を予想し、それに対応できるシステムをご提案します。
開発する際は、運用・保守のしやすさも見据えています。「接続先のシステムがここまで動作保証します」と言われたとしても、「確率は低くても接続時にエラーになった場合に、どうにもならなくなってしまうことは避けたいので、あらかじめ準備しておこう」と。そうしないと何かあった際に、復旧までの時間もかかります。例として、クラウド化によるシステムダウンがあります。クラウドサービスはサービス維持、拡張面で非常に有効なサービスですが、瞬断という非常に短い切断が発生します。以前、オンプレミスなど独自のハードで保証されていたものが、クラウド化したことで稀に落ちることがあるのです。そのため、これまで以上に接続のリトライや自動化をシビアに考えなければ、ECサイトの安定運営が難しくなる傾向にあります。
Webサービスは24時間365日動いていて当たり前と思われがちですが、稼働維持をするためには相応の準備が必要です。高い可用性を保つ設計をするためには、お客様のビジネスと依頼内容を深く理解する必要があります。「絶対にサービスを止めない」ためにも、お客様のビジネスを深く調べ、密なコミュニケーションを図るようにしています。事実、当社のBizDevOpsを導入したサービスは平均で障害数87%減の実績があり、加えて、これまでのノウハウから、サービス利用時に不要な疑問をできるだけ生まない設計・開発を行うことで問い合わせ数40%減と、大きな成果をあげています。
「富士ソフトBizDevOps」導入で、コスト削減・リソース不足解消
ここからは当社が担当したあるEC事業者さまの事例についてご紹介します。
1つ目は、サーバー運用コストの削減事例です。ECサイトで商品画像などを表示する際、当時の技術では、PCやスマホ、ガラケーそれぞれの端末用に全ての画像をリサイズ・トリミングし、登録する必要がありました。しかし、それでは1枚の商品画像のために複数枚の画像が必要となり、サーバーの容量を圧迫する上に効率もよくありません。サーバー台数も多くなってしまうことから、運用コストが高くなっていました。
そこでお客様から「新しい技術を使ってコストを削減できないか」と相談いただき、新技術の導入をすることに。仮想サーバーを活用し、瞬時に画像を圧縮して表示させる方法を提案、300台だったサーバーを8台に削減することに成功しました。当時は新しい技術だったこともあり、運用に耐えうるか1年近い検証が必要でした。しかし、お客様のビジネス特性を踏まえあらゆるパターンで粘り強く検証し、無事に導入。大幅なコスト削減につながったことで、お客様からも評価いただきました。
2つ目は、リソース不足の解消事例です。お客様は、開発リソースを一部ベンダーに外注して補填していたEC事業者さまで、ベンダーコントロールはお客様の情報システム部門が行っていました。しかし、お客様に新規事業を立ちあげる企画が持ち上がり、内部の開発リソースが不足する事態となりました。新規事業・既存事業ともにリソースが不足した状態で進めてしまうと、どちらの事業も他社から時間的に置いて行かれてしまう為、お客様は新規事業に注力する判断を行います。
そうなった場合に困るのは既存事業です。これまで情報システム部門が担当していた企画部門との調整、開発ベンダーのコントロールなどの開発に必要な作業を、慣れない企画部門が実施する必要に迫られました。そこに当社のBizDevOpsチームが入り、既存事業の要求整理から、開発、運用までを担当し、これまでの情報システム部門と同等の業務を行いました。その結果、既存事業はサービス推進力を維持でき、且つ新規事業にも注力できるようになったのです。
これらの事例のポイントはまさにDevOpsに「Biz」の観点を加えたこと。漠然と「運用コストがかかっているからなんとかしたい」「リソース不足をどうにかしたい」と相談いただいた際に、ビジネス視点で改善案を考え、具体的な提案・実行まで行う当社の強みを発揮できたと思います。
昨今、日本経済は停滞し、かつての勢いが少なくなっていると感じています。また、今後もリソース不足やDXの推進などさまざまな課題に対し、改善に向けた動きをとる企業が増えていくと思います。そういった中で、私たちのソリューションはリソース不足をはじめとしたあらゆる課題の解決策になると信じています。富士ソフトにご相談いただいたお客様には、引き続き最大限の価値を提供し、お客様の事業推進を加速したいと思っています。お客様の成功の一助になることが、私たちにとって一番の喜びだからです。