エンジニアの挑戦
2024年9月6日

「創造性を育むICT教育」デジタル教科書プラットフォームで進む教育DXと今後の展望

2024年現在、教育の現場は大きな変革を迎えています。文部科学省のGIGAスクール構想により、小学校・中学校・高等学校で学ぶすべての生徒に1人1台のデジタルデバイスが配布され、デジタル教科書の導入が急速に進んでいます。こうした動きに呼応する形で、富士ソフトでは教科書・教材出版社向けに「みらいスクールプラットフォーム」を開発。デジタル教科書の制作・配信・利用をワンストップで実現するプラットフォームの提供を通じて、教育DXを推進しています。本稿では開発責任者である石井雄大への取材内容をもとに、富士ソフトの持つ強みや今後の事業展開について迫ります。

登場社員のプロフィール
  • 石井 雄大

    2006年、新卒で富士ソフト入社。業務システム系の開発プロジェクトに従事。みらいスクール事業部(現みらい教育事業部)の発足メンバーとして、自社プロダクト「みらいスクールステーション」の運用保守を担当。現在、プロダクト事業本部みらい教育事業部第2商品開発グループ課長。

大切なことは、相手の目線に立つこと

──富士ソフトに入社したきっかけを教えてください。

子どもの頃から小説を書くことが好きで、小説家になることを目指して文学部に入学しました。ただ、大学2年生のときに同世代の女性が芥川賞を受賞し、「かなわない」と感じたことで小説家になることはあきらめました。なりたかったもう1つの職業は教師でしたが、教職課程を履修していなかったため、こちらも断念。その後、就職に際して一般企業の会社説明会に参加をする中で、学校や教員向けのシステムをつくって業務をサポートできる仕事があることを知ったのです。プログラミングの経験はありませんでしたが、システム開発を通じて教育業界や教員を支える仕事に携われるならばと、SIerへ興味を持ったことが当社への入社のきっかけです。

──富士ソフトに入社してから教育関係のシステム開発に携わったのは入社2年目の時と聞いています。どんな経緯で関わるようになったのでしょうか。

当時、学籍や成績管理を行う教務システムの保守を担当することになり、問い合わせ対応やカスタマイズ開発に携わっていました。その後、現在所属している「みらい教育事業部」の前身組織が立ち上がり、「みらいスクールステーション」の専門メンバーとして携わりました。このプロダクトは学校内のネットワークに専用端末を接続することで、テレビやプロジェクター、電子黒板機能を持った大型提示装置などで、校内放送やタブレット授業が可能になるというもの。私は導入や運用保守を担当しており、学校の状況や教員が想定している使い方をヒアリングしたり、現地に足を運んで説明会をしたりと、特にお客様である学校関係者と接する機会が多い立場にありました。

「みらいスクールステーション」は授業の進め方に直接関わるもの。先生方が作成された資料や動画を、授業の中でどう活用すれば子どもたちが分かりやすいのか。公開授業を見せてもらいながら試行錯誤したのは、それまでのシステム開発にはない面白みでした。紙文化が長く続いてきた学校では、新しいものが受け入れられにくいこともあります。しかし、伝え方や資料のつくり方を変えてみるなど、相手の目線に立って物事を考えることを大切にしてきました。

GIGAスクール構想を支える富士ソフトの技術

──2019年に開始されたGIGAスクール構想を契機として、教科書・教材のデジタル化から配信・利用までをトータルに対応するサービス、「みらいスクールプラットフォーム」がリリースされました。開発プロジェクトの中で注力した点、苦労した点について教えてください。

私はプロジェクトの開始当初から開発メンバーとして携わり、今では開発責任者としてプロダクトの管理全般を担当しています。プロダクトを開発するにあたって、当社では大きく3つのテーマを設けていました。

1つ目は、「共通基盤としての芯をぶらさないこと」。一口に教科書といっても、国語・算数・英語・理科・社会など、教科ごとに学習内容も活用方法も異なりますし、同じ教科であっても出版社ごとに出したい特色は違います。たとえば、国語では朗読や段落表示の機能が求められますが、算数では定規やコンパスなどの教具を使ったり図形やグラフを動かしたりする機能が求められます。それらの教科に特化した機能は別の教科では不要なものです。何を標準機能として実装すべきなのか、仕様を検討するうえでまず考えた点です。

出版社からのご要望を踏まえて仕様の検討を進めていきましたが、受託開発ではなく自社プロダクトだということを意識して、当社が標準機能として必要だと判断したものだけを実装するように務めました。結果的に、使う人にとってもつくる人にとってもシンプルでわかりやすい仕様に仕上がったと思います。

2つ目は、「動作を可能な限り軽くすること」。学校のネットワーク環境で、子どもたちに配布される端末スペックでもページをめくったり書き込みをしたりといった、一つひとつの操作が軽快な動作となるように工夫して、授業や学習の妨げにならないようにしました。

3つ目は、「出版社が簡単にデジタル教科書をつくれること」。出版社が制作にかける負担をできる限り減らすことを考え、ITの専門知識がなくても編集者の方が自分たちで簡単にデジタル教科書を制作できるオーサリングツールを開発しました。マウス操作で資料づくりを行うスキルがあれば、順を追って操作することでデジタル教科書が出来上がります。同時に、修正に際しても開発会社へ依頼する必要がなく、コストを圧縮できる点も多くの出版社にご採用いただいた要因となりました。

独立系企業として、自社プロダクトを提供できる

──今後も教育DXが広がりを見せていく中、富士ソフトの強みはどのような点にあると考えていますか。

現在、競合となるプラットフォームは6つほど存在しますが、当社の強みは独立系企業として自社プロダクトを展開していること。他のプラットフォーム提供会社は出版社から受託して開発を行っていますが、当社はどこか一つの出版社に寄ることはなく、各社の意見を咀嚼して必要と考えたものを提供する立場です。特定の出版社に肩入れしないため、文部科学省やまだお付き合いのない教科書・教材出版社からは頼りがいのある企業として映ります。

──座組も含めて、順調に「みらいスクールプラットフォーム」がリリースされたように感じるのですが、開発以外の部分で、苦労した点などはあるのでしょうか。

当初、このプロジェクトへのアサインには抵抗感がありました。2019年当時、私自身がデジタル書籍に馴染みがなく、小さい子どもたちには尚更、使い勝手が悪いのではないか、という想いがありました。ただ、当社が開発を行う、行わないに関係なく、デジタル教科書が使われるようになることは国の方針として決まっていました。

第一子が生まれたタイミングと重なったこともあり、自分の子どもも使うことになるであろう新しい教科書をつくるプロジェクトに加われることを前向きにとらえて、デジタルならではの使い勝手の良いものをつくろう、と思い直しました。そうした気持ちは今でも変わっておらず、日々、デジタル教科書がどうすれば子どもたちの教育に役立ち、自分はそのために何ができるのかを模索しています。

ありがたいことに、「みらいスクールプラットフォーム」を利用する出版社は、プロジェクトスタート時点では3社でしたが、今では18社まで拡大しています。今後は教科書以外の副教材や問題集などにも提供範囲を広げ、子どもたちが自宅に帰った後、1つのプラットフォームで勉強できる世界の実現に向けて取り組んでいきたいですね。

子どもたちに喜ばれるプロダクトを手がけたい

──余談ですが趣味で「マーダーミステリー」という体験型推理ゲームのシナリオを書いているそうですね。

そうなんですよ。某マーダーミステリーアプリ内の"オススメシナリオを選ぶ企画"では、2作品で受賞したこともあります。プレイヤーに楽しんでもらうためには、ゲーム内の役割やルール設定に違和感なく没入してもらうことが必要で、「こういう記載をすると、プレイヤーはこういう風に行動してくれるよね」と、心理状況を思い浮かべながらシナリオを作成することを意識していますが、こうしたことができるのは、クライアントワークの中で培われた部分も大きいと感じています。

──お客様と接することで得られる成長感があるのですね。やりがいを感じる部分はどこですか。

当社には、やりたいと希望したことには背中を押してもらえる風土があり、デジタル教科書プラットフォームという公共性の高いプロダクトの、開発責任者を任されていることには、大きなやりがいを感じています。

──最後に今後挑戦していきたい領域や目標などについて教えて下さい。

これまでの5年間は紙媒体からデジタル媒体へ教科書を安定的にシフトしていくことに注力していました。今後は文部科学省が提示している「子どもたち一人ひとりに個別最適化された創造性を育む教育ICTの実現」に注力したいと考えています。

もう1つ、個人的な夢をお伝えすると、子どもが学校で「お父さんの仕事は?」と聞かれたときに、教室で使っているデジタル教科書を指差して、「これをつくっています」と自慢してもらうことです。私やプロジェクトメンバーが手掛けたプロダクトが、子どもやその友達の成長を促し、喜んで活用してもらえるのであれば、それ以上に嬉しいことはありません。エンジニアとしての挑戦と父としての願いの双方を胸に、富士ソフトの強みを最大限に活かしながら、今後も多くの方々からの期待に応えたいです。