SAP 2025年保守切れ対応とDX推進の両立について考える(前編)

最近、様々な業種や企業規模のSAPユーザー企業様から、いわゆる2025年保守切れ問題への対応についてどうしたらよいか、多数のお問い合わせをいただいています。コロナ禍の影響で対応を棚上げにしてきた企業が、コロナ禍が収束に向かいつつある現在(2021年11月)、SAP S/4HANAへの移行の検討を再開しているようです。

その一方では、ERP 6.0のEhP(Enhancement Package)をアップグレードすることで延命し、とりあえず2027年まで保守を延長させてからS/4HANAへ移行する、もしくは他のERPに乗り換えるという対応を検討している企業もあります。

EhP 6以上であれば、ERP 6.0のまま2027年まで保守期間を延長できますし、さらに追加で延長サポート契約を結べば、2030年まで延長が可能です。エンタープライズ級の企業の中には、いきなりS/4HANAへ移行すると業務への影響度合いが大きいため、一旦EhPのアップグレードで、乗り切ろうと検討される例もあります。

EhPのアップグレードはアドオンに注意

EhPのアップグレードは、ERP 6.0 へのパッチ適用で行います。コストも期間もかからないと思われるかもしれませんが、現実はそう簡単ではありません。その理由は、アドオンです。
アドオンが多い場合、EhPをアップグレードした後に、アドオンの検証や動作確認のためのテストにかなりの工数が必要です。さらに、複雑なアドオンの場合は、アドオンプログラムの改修も必要になります。

これらのテストやプログラム改修の工数が、アドオンの本数に応じて積み上げられ、コストが膨らむ原因となります。EhPのアップグレードについてのベンダー見積もりが、ERP 6.0を導入した際と変わらないコストで提示されて驚かれた方もいるのではないでしょうか。

つまり、テスト工数、改修工数がコスト肥大の原因となりますので、テストの実施内容次第でコストが大きく変わります。最近は、システムインテグレーターからツールを使用したEhPのアップグレードサービスが提供されていますし、全件ではなく一部のみテストを実施し、かつオフショア作業を組み合わせて、安く・早く・確実にEhPのアップグレードを実現しているケースもあります。

S/4HANAへの移行方法としてのGreenfield と Brownfield

S/4HANAへ移行するには2つの方法があります。それは、Greenfield(新規導入)とBrownfield(システム・コンバージョン)です。Greenfieldは、S/4HANAを新規で構築し、現行のデータをマイグレーションする方法で、Brownfieldは、現行のカスタマイズやデータをそのまま移行する方法です。移行するお客様のIT環境、ビジネス環境などを考慮して、メリットのある方法を選択します。

※Greenfieldとは、未開発でまだ建物を建てたことのない雑草が生い茂った土地を指します。これに対してBrownfieldとは、かつて建物が建っていた土地で今は使われていない土色の地面がむき出しの土地を指します。SAP社では、S/4HANAへの移行をこれらの土地の状態になぞらえて、比喩的に表現しています。

ERP 6.0 からS/4HANAへの移行にあたって、Greenfieldで行くべきか?それともBrownfieldで行くべきか?の選択については、それぞれのメリットとデメリットについてよく検討したうえで決定します。

Greenfieldのメリットは、既存のシステム環境や既存のアドオンに左右されずに移行が可能なため、着手が容易であることが挙げられます。またDX対応など、現在のビジネス環境に合ったシステムをS/4HANAの最新の機能を利用して構築できることもメリットです。デメリットは、Brownfieldと比較すると導入コストが比較的高額であり、新たにアドオン開発が必要となる可能性もあります。また、カスタマイズやアドオンの影響により、過去データがそのまま移行できない可能性もあります。

一方、Brownfieldのメリットは、Greenfieldと比較すると導入コストが比較的低額であること、適切な移行ツールを使用することで手間がかからずに移行できることが挙げられます。デメリットは、移行をビッグバン方式で進めるため、ダウンタイムが長くなると業務に支障が生じる可能性があることです。先述のように、アドオンがある場合は移行後にアドオン検証やアドオン改修が発生してしまい、Brownfieldで移行してもGreenfieldと同じようなコストと期間がかかってしまう可能性もあります。

DXにも早急に取り組みたい

このようなSAPの2025年問題を抱えている企業様から、今すぐにでもDXに取り組みたいとご相談をいただく場合があります。その理由は、「コロナ禍が収束すれば人手不足に陥ることは明白なので、今のうちに業務の生産性向上に取り組む必要があるから」とのことです。

2021年11月現在、国内の1日あたりのコロナ新規感染者数は約200名です。これはピーク時の2021年8月20日の25,992名と比べると、100分の1以下になっています。コロナ禍の収束によって経済活動が元に戻り消費が増え、その結果、サービス業を中心に人手不足に陥ってしまうでしょう。特に労働集約型のサービス業、小売業にとっては、人手不足は死活問題です。今のうちからDXで労働生産性を上げておく必要がある、というわけです。

DXとは、「デジタル技術を使ってビジネスモデルの変革を実現する」ことです。RPAの適用やオンライン会議ツール、電子契約サービスを導入しただけでは、単にITを活用した業務改善を実現したに過ぎず、DXとはいえません。DXで労働生産性を上げるためには、ビジネスを根本から見直し、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルを変革することが必要です。

日本の労働生産性は低い

日本の労働生産性を国際比較すると、日本はOECD加盟35カ国の中では21位、G7各国の中では最下位です。(総務省:「日米比較を通して日本の労働生産性向上の方策を考える」より)その理由としては、業務が属人的で標準化されていないことと、人手に頼らずデジタル化による生産性を上げる工夫がされていないことが挙げられています。日本は諸外国と比べると、同じ売上を上げるのに、多くの人手と多くの時間をかけているということになります。

業務の生産性を高めるには、まずは業務の標準化が必要です。標準化ができなければ、その業務のデジタル化ができないからです。業務の標準化を進めるためには、クラウドサービスやパッケージソフトがもつ標準業務フローに合わせてしまうことが近道です。業務の標準化については共著「経営のイロハをDX化する「開発しないシステム」導入のポイント―パッケージで、管理業務を早く・安く改善」(中央経済社)をご一読ください。

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後編へつづく

板井 実板井 実(Minoru Itai)

イデア・コンサルティング株式会社
SAP推進部
部長

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