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ECでビジネスの可能性は広がるか

前回(ECサイトの構築・運営を勧めない3つの理由)は、ECサイトの構築や運営を取り巻く環境について、現在の状況を語らせていただいた。すでにECに取り組んでいる企業もあれば、ECとは無縁のビジネスを展開している企業もある。ただ、ECに取り組もうと考えている企業が増えていることは間違いない。

ECの実現方法は1つではない。前回も書いたように、楽天やYahoo!などたくさんのショッピングサイトに出店する方法のほか、オークションサイトやフリマアプリを使う方法もある。これらへ簡単に出店できるパッケージソフトも提供されていて、ECを始めるだけであればハードルは低くなっていると言えるだろう。
これからECに取り組みたい場合は、試しに上記のようなサイトで始めてみることをオススメする。

ただ、ECで扱う商品の特性や企業が抱えている課題はそれぞれ全く違う。それらと真面目に向き合うと、既存のECサービスでは対応しきれないことも多い。このような場合、独自にECサイトを構築することになる。

既存のECサービスで対応しきれない理由は、大きく2つある。

1つは、費用対効果やプロモーションの限界だ。
売上の何割もEC運営会社へ支払い続けることは、一定の規模を超えると、自前でECを持つより割高になる場合が多い。また特定のプラットフォームに依存する場合は、顧客情報などが自社に残らず、さらに商売の対象が一定のモールユーザーに限られるため売上が頭打ちになることが多い。

もう1つは、一般的なECシステムではできることに限界があることだ。
ショッピングモールや既存のECパッケージシステムは、あらゆる業種に対応できるように、汎用的な仕組みになっている。そのため、特定の企業の要望に全て応えられるわけではなく、細かなカスタマイズが難しい。自動化して作業を効率化しようと思っても、作業が属人化していて、特定の担当者のスキルがないと処理できない場合もある。

既存サイトの規模が大きくなりECサービスの費用対効果が薄れてきた、もしくは本格的にECサイトに取り組みたい、と考えているならば、「自社での独自ECサイトの構築」を目指すことになる。

今回は、当社がこれまで手掛けた独自ECサイト構築の事例を3つ紹介したいと思う。

【独自ECサイト構築事例 1】自転車のパーツ(ギアなど)卸売会社

こちらのお客様は当社へご相談いただく前からB to BのECサイトを運用されていたが、残念ながらあまり利用されていなかった。この部類の商材は、取引先が型番でネット検索して注文をすることが多い。また、型番だけでは探しにくいことも考慮し、自転車のカタログを掲載、必要なパーツを画像で確認できるようにして注文しやすく改良した。

…これだけなら既存のパッケージでも可能では?
そう思われるかもしれないが、これだけでは終わらない。

同社では古い型番の在庫がしきい値に達したとき、新しい型番のものを売るよう手配している。大手販社への卸しを優先させているため、町の自転車屋など小規模業者の少数オーダーに対応しきれないケースもあった。
そこで、全てのオーダーに対して新旧の型番や在庫の判断をして、抜け漏れなく出荷をコントロールできる仕組みを構築した。このケースは設計から構築までに与えられた期間はわずか4ヵ月しかなく競合他社は対応を断念していったが、当社はきちんと改善提案し、やり遂げた。

【独自ECサイト構築事例 2】大手音楽教室

音楽教室では、練習用の楽器を生徒(顧客)が用意する必要がある。多くの生徒にとって楽器は高額であり、またいつまで習い続けられるかわからない。特にバイオリンなどは身体の成長に伴い買い替える可能性があり、楽器をリースするケースが増えていた。しかし、リース管理ができるECパッケージは見当たらず、さらにこの教室では、自宅に設置できる防音室など特殊な商品のリースも扱っていた。リースを行うには個体管理や契約管理といった機能も必要だが、当社へご相談いただいた段階では既存のシステムに対する追加の開発もできず困っていた。
そこで、サイトリニューアルを機に、リース管理や個体管理、契約管理などの機能を検討し、オンライン上で全ての手続きが完結できる仕組みを構築した。情報の一元管理を実現したことで、生徒の利便性を高めることができた。

【独自ECサイト構築事例 3】石油商社

石油商社は、輸入した石油等をガソリンスタンド(小売店)へ卸売りをすることを主なビジネスとしている。だが、EV車が増加するとともにガソリン車が減っていくことは想像に難くない未来図であり、今後、小売店の収益減は避けられない。そのような状況で、このお客様は小売店の売上に少しでも寄与できる方法がないか考えていらした。当社にご相談いただいた際は、すでに他社が作った小売店用のECシステムを運用されていたが、全国展開するには機能やスペック面で難しいものがあった。
そこで、当社は小売店用のECパッケージを開発し、それを各店が無料で利用できる仕組みを構築した。通常、他社が設計、開発したものを改修し機能アップするような作業は嫌がられるものだが、既存のプログラムソースを当社がすべて巻き取り対応した。今後3年間に必要と想定される機能を新たに追加し、さらにログを獲得できる仕組みを構築、サーバも移行して盤石なものにした。

ここに挙げた事例はいずれも、ショッピングモールや既存のECパッケージでは実現が難しいものである。
ショッピングモールや既存のECパッケージで構築したECサイトが、売上の増加や人件費の高騰、さらにシステムのカスタマイズが必要になったときなどに、このような独自ECの開発が必要になる。そんな時、顧客目線で課題を見つけ、ECの特性を活かして解決につなげられる役割は重要だ。

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この記事の執筆者

柴田 晃宏Akihiro Shibata

執行役員
ネットソリューション事業本部長

EC レポート