
2022年末に、ChatGPTが公開されて以来、生成AIは大きな注目を集めてきました。現在では、複数の生成AIを自律的に連携させることで、より複雑なタスクの実行を可能にするAIエージェントにも注目が集まっています。生成AIやAIエージェントをどのように活用するかというテーマは、今後のビジネス環境において重要なものとなっており、私たちの日常生活に対しても大きな変化をもたらすことが予想されます。
本コラムでは、生成AIやAIエージェントなどの活用と、その推進に欠かすことのできないデータ基盤について、クラウドサービスとしてデータ・AIの利活用を効果的に進める実行環境である「AIデータクラウド」の紹介をします。
注目される生成AI・AIエージェント
AIへの関心が高まる中で、特に生成AIへの注目が一際大きくなっています。しかしAIと一言で言っても、多くの種類が存在しており、大きくまとめると以下の3種類に分類することができます。
AIの分類 | 概要 |
生成AI | テキスト・画像・音声・動画などのコンテンツを自動生成するAI技術。マーケティング、営業、カスタマーサポートなどの分野で、 業務の自動化と創造性の向上 に貢献する。 |
機械学習(ML) | 過去のデータを学習し、パターンを分析・予測することで、 ビジネスの意思決定や業務効率化を支援する技術。売上予測や顧客分析、異常検知などに活用される。 |
AIエージェント | データを活用しながら自律的に判断・実行し、 業務の自動化や意思決定を支援するAIシステム。営業、カスタマーサポート、経営判断の最適化に役立つ。 |
データとAIの適切な利活用には、「生成AIを導入する」や「AIエージェントを導入する」など、それぞれ単独で検討するものではなく、ビジネスや社会の効率化、高度化に向けて、データとAIをその特性に応じてバランスよく検討していくことが重要になります。
AI利活用のユースケース
では、AIをどのようにビジネスや社会に活用していくのでしょうか。私はAI利活用のユースケースは以下の4つのステップで進行するのではないかと考えています。
成長ステップ | ユースケースカテゴリ | 具体的なユースケース |
①知的生産支援 | 文章作成・知識検索 | AIライティング、議事録作成、メール返信支援 |
データ収集・整理 | 情報の自動収集、要約、書き下し | |
②分析・意思決定支援 | データ分析・レポート作成 | 売上分析、異常検知、リスク予測 |
最適解の提案 | 財務分析、マーケティング戦略立案 | |
③作業の最適化・自動化 | 特定作業の最適化 | シフト作成、物流ルート最適化 |
複数作業の自動化 | CRM入力自動化、定型業務のRPA化 | |
④関係性の最適化・人とAIの協働 | 関係性の最適化 | チームの適切な役割分担、議論のバランス調整 |
これらのユースケースは生成AIのみではなく、機械学習AI、AIエージェントと適切に組み合わせながら活用されていきます。必ずしも生成AIが万能なのではなく、生成AIチャットは初期のAI活用には敷居が低く導入・活用が容易ですが、より効果的なAI活用には、データ基盤や機械学習、AIエージェントと連携した活用が重要になります。
AI利活用の課題
さまざまな用途で利用できるAIですが、活用には以下のような課題も存在します。
- 導入後、業務への活用が難しい
生成AIを導入したものの、活用が進まないという企業も多く見られます。これは、具体的な目的がないまま生成AIを導入してしまった企業にありがちなケースです。生成AIが自社でどのように活用できるのか、具体的なユースケースを見据えた活用方法の検討が必要です。 - データを保管する基盤が必要
生成AIの活用には、適切なデータを収集、蓄積し、整備することが重要になります。その際は、安価で拡張性のあるクラウドインフラを活用して、社内システムとの連携やデータ加工、AIエンジンとの接続など、多様な機能を備えた基盤を整えることが求められます。
生成AIの活用においては、これらの課題を念頭に置く必要があります。
AIデータクラウド時代の到来
このように、生成AI・AIエージェントの活用には、生成AIを便利なチャットとして使用するだけではなく、データの収集・蓄積および活用といった一連のプロセスを実現するための環境構築が重要です。この背景を踏まえ、昨今ではこのような環境をクラウドで提供する「AIデータクラウド」が注目されています。
ビジネスでコンピューターの活用が進んだ1980年代から、データ・AIの時代といわれる現代まで、ITトレンドは大きな変化を遂げてきました。私は、以下4つの大きな流れの中で、AIデータクラウドの時代が到来したと考えています。
ITトレンドの潮流
- 1980年頃~:パソコン/プログラムの時代(点の時代)
オフィスにコンピューターが登場した1980年代は、オフコン(オフィスコンピューター)やメインフレームなどが中央集権的に動作し、業務の効率化を図っていました。コンピューター同士のつながりはなく、コンピューターは「点」として動作していたといえます。 - 1995年頃~:インターネット/Webの時代(線の時代)
インターネットおよびWebが登場し、コンピューター同士は相互接続されるようになりました。遠隔での情報連携が可能になったこの時代は「線の時代」といえるでしょう。 - 2010年頃~:クラウド/スマホの時代(面の時代)
クラウドやスマホの登場により、いつでも・どこでもネットワークに接続できるようになりました。人々は常時コンピューターやインターネットに接続し、日々の生活やビジネス上の業務を行う「面の時代」になったといえます。 - 2024年頃~:データ/AIの時代(円の時代)
あらゆるコンピューターやデバイスが相互接続されるようになった現代では、それらから生みだされるデータを活用する動きが進んでいます。多様なデータ源から得られたデータを収集・蓄積し、つなぎ合わせて活用する「円の時代」が訪れたといえます。
これらの歴史を振り返ると「個人と社会のつながり方をテクノロジーがアップデートしてきた」ことが分かります。現代は、大量のデータを収集・蓄積・活用するために、AIデータクラウドが求められる時代だといえるでしょう。

今注目されるAIデータクラウドとは
AIデータクラウドとは、企業や国を越えてさまざまなデータを共有しつつ、AIでデータを組み合わせて価値を創出するプラットフォームです。
AIデータクラウドのプラットフォームは、大きく分けて「集める」「つなげる」「活用する」という3つの機能から構成されます。
- 集める
データを集める機能として、データを収集するためのETL/ ELT (抽出=Extract、変換=Transform、書き出し=Load)、データメッシュ、ワークフロー管理機能が挙げられます。また、集めたデータを利用しやすくするためのデータカタログ機能も備わっています。 - つなげる
データをつなげる機能には、機械学習によるデータ分析や生成AIの活用、およびモデル管理機能が含まれます。 - 活用する
データを活用する際は、BI(ビジネスインテリジェンス)によるデータの可視化やユニバーサルサーチ機能、APIの提供など、アプリケーションにおけるデータ活用をサポートする機能を用います。
これらに加えて、アクセス管理やデータ保護、プライバシー保護など、生成AIやデータ活用において必ず課題となるガバナンス面をサポートする機能も備えています。

AIデータクラウドのメリット
AIデータクラウドの3つの機能を活用すれば、以下のようなメリットが得られます。
- 生成AI・データ活用に必要な全機能を利用可能
前述の「集める」「つなげる」「活用する」ための各機能を備えたAIデータクラウドを導入することで、データの収集・蓄積・活用といった一連のプロセスを全てカバーする環境を構築できます。複雑な構築プロセスを経なくても、サービスが利用可能になるのです。
AIデータクラウドは、企業が自社に適した生成AIの具体的なユースケースを発見するための環境を提供します。例えば、機械学習や生成AIを活用したデータ分析やモデル管理機能を通じて、どのようなユースケースに生成AIを使うべきかの新しい洞察が得られ、企業のニーズに適した活用方法が明確になります。 - 大量のデータを活用
拡張性が高く、データ連携が容易なので、企業や国を越えて一元的にデータを管理する基盤を構築しやすくなります。
また、大量のデータによって、新たな事業開発、既存ビジネスにおける付加価値の検討など、データ活用の新たなユースケースを見出すこともできるでしょう。
AIデータクラウドを理解するためのポイント
AIデータクラウドをより詳しく理解できるように、ビジネスの観点から解説します。
ビジネス上のアプローチの変化
ビジネス上のアプローチの変化は、AIデータクラウドが求められる一因です。
従来のビジネスにおいては、まず課題とKPI(評価指数)を定義し、ユースケースシナリオを検討して、それに基づいて要件定義~実装~運用を進めるというアプローチが一般的でした。このアプローチは、じっくりとビジネスを進められる時代には適しています。
しかし、VUCA※の時代(目まぐるしく変転する予測困難な時代)である現代には、このアプローチはなじみません。
不確定要素が多い現代では「そもそもユースケースが分からない」「開発のリードタイムが長くビジネスの変化に追いつけない」という課題が生まれています。
このような課題を踏まえると、現代におけるアプローチでは、「仮説とCSF(Critical Success Factor:成功要因)」から検討を始めるべきではないでしょうか。
まず仮説やCSFを検証するために必要なデータを見つけ出し、検証します。
ここで、大量のデータを保有するAIデータクラウドが有効です。AIデータクラウドから必要な情報を検索したうえで、未知のユースケースを発見します。
見つけ出した未知のユースケースに基づき、プロトタイピングやアジャイル開発によって素早くサービスを開発し、ビジネスを推進できれば、変化が速く不確実性の高いビジネス環境にも対応しやすくなります。
※VUCA = Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語

AIデータクラウド導入プロジェクトの推進プロセス
最後に、AIデータクラウドの導入を行う際の推進プロセスについて簡単にご紹介します。
仮説・CSFの検討
AIデータクラウドの導入においても、前述の仮説・CSF検討が重要です。「AIデータクラウドの導入でどのような課題を解決できるのか」「どのような機能や要素がAIデータクラウドの導入を成功させられるのか」という観点で、検討を進めます。
検討にあたっては、社内でのヒアリングやディスカッションのほか、データ活用に精通した外部ベンダーなどの知見も活用するとよいでしょう。
ADD(Adaptive Data Discovery)の実施
次に仮説・CSFを検証するためのデータを探します。当社ではこの必要なデータを探すプロセスを「ADD(Adaptive Data Discovery)」と呼んでいます。ADDのプロセスではいったんエンジニアリングやテクノロジーから離れてデザイン的な視点に立ち、自社の中にどのようなデータがあるかを探しつつ検証を進めます。
データ基盤の環境構築
方針が定まったら、エンジニアリングの視点に戻り、その方針をどのようなテクノロジーで実現できるか検討します。具体的にはどのようなAIデータクラウドサービスを導入するか選定し、環境を構築します。環境構築と併せて、各データソースからETL・ELTツールでデータを集め、AIデータクラウドへと格納します。
ユースケースの探索・ビジネスの最適化
蓄積したデータをもとにAIやデータ分析ツールなどを用いて、ユースケースの探索やビジネスの最適化を行います。具体的なアプリケーションを用意することがポイントです。発見したユースケースに基づき、BIツールによる見える化や、プロトタイピングやアジャイルによって実サービスの開発などを進めます。
まとめ
本コラムでは、生成AI・AIエージェントのユースケースと課題やAIデータクラウドの概要についてご紹介しました。
データの収集・蓄積・活用までを一元的に対応できるAIデータクラウドは、現代のビジネス環境における強い武器です。
これからデータ活用を進められる企業も、すでに構築したデータ活用環境に課題を抱える企業様も、一度、AIデータクラウドの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
AIデータ分析利活用についてはこちら
データ分析・利活用ソリューション|富士ソフト株式会社